さくら、さく、くにたち

さくら、さく、くにたち

年が明けてもコロナは落ち着かず、私自身は新しい職場で働き始めたこともあり、この3カ月間、ずっと心に余裕のない毎日を送っていたように思います。“上を向いて空を眺めてみましょう”というシンプルな言葉に、「確かに目の前のことに必死で、空を見上げることすらなかったな」とハッとさせられました。

空を見上げれば、そう、桜の季節。世の中がどんなに不安定でも、毎年きれいな花を咲かせてくれることに感謝です。そして国立の駅前から延びる『大学通り』の桜並木は、本当に素晴らしい。ベンチがあちらこちらに点在して、日常風景の中に桜が自然に溶け込んでいる「まるで公園のような街だ……」と、娘の大学進学で初めてこの街を訪れた時のことを思い出しました。

国立駅から南に真っ直ぐ伸びている『大学通り』から、途中で右折して矢川まで続く、『さくら通り』にかけて咲き誇る桜の数は、およそ340本。ソメイヨシノを中心に、寒桜、八重枝垂桜、大島桜、山桜など、多くの品種が植えられています。『さくら通り』に差し掛かる手前にある大きな歩道橋の上から見渡す桜並木は圧巻。長いスロープが美しい曲線を描きながら桜の木を包み込むようにして建っている、この歩道橋が大好きです。

設置されたのは今から50年以上前の1970年なのだとか。かなりさびが目立っていましたが、2020年夏に塗装工事が施され、今年はすっきりときれいになりました。段差のない長く緩やかスロープは、歩行者はもちろん、自転車やベビーカー、車いす……すべての人にやさしいつくりになっています。桜の撮影に行った日も、ベビーカーを押しながら景色を眺めているご家族の姿がありました。今でこそ、“バリアフリー”とう言葉と共に段差をなくした建物やスペースが増えてきましたが、50年前にこんな形の歩道橋を設置するという意識の高さ、桜の美しさを引き立てつつ共存するデザイン、そしてこの景観……。すべてにおいて、見事だと拍手を送りたい気持ちでいっぱいです。

『大学通り』の全長は、およそ1.5㎞、道幅はなんと約44mあります。国立市は、もともとは雑木林だったこの地域に、大学を誘致するために『箱根土地(現プリンスホテル)』が開拓したことで生まれた街ですが、1927年から1929年までこの通りが「飛行機の滑走路として使われていた……」という “噂”があるようです。

調べてみると「国立から軽井沢(当時、『箱根土地』は別荘地として軽井沢の開拓にも力を注いでいたため)に鮮魚などを運ぶために使われていたらしい……」という話もあったようですが、明確な記録が残っているわけでなく、実際に使われたとのかどうかは謎に包まれたまま。そこがまた、空想やロマンをかき立てるのかもしれません。ここから飛行機が飛び立つ姿‥‥‥イメージするだけで、なんだかワクワクした気分になれそうです。

桜を守る、命をつなぐ

この見事な桜並木は、1933年(昭和8年)に現在の上皇陛下(平成天皇)が皇太子としてご誕生されたことを祝して、当時『大学町(だいがくまち)』と呼ばれていた現在の大学通りの住民たちが『国立町会(くにたちちょうかい)』という会を結束し、1934年から1935年にかけて大学通り両側の緑地帯に、当時の谷保村青年団の方々と一緒に植樹したものです(国立市WEBサイト『くにたちの桜』より)。

ということは、今年で87歳。人間で考えればかなりのご高齢ですが、木は長生きだから樹齢としては、まだまだ若いのでは……。実は桜の代表格『ソメイヨシノ』の寿命は60年という説もあるほどで、50年を過ぎると幹を延ばさなくなり、枯れ枝が目立ち始め、病気に侵されやすくなるのだそうです。

上野公園や新宿御苑には樹齢100~120年という『ソメイヨシノ』もあるそうですが、およそ90歳になろうかという『大学通り』の桜は、本当に頑張ってくれていると思います。でも、通りを歩いてみると……枝を切り落とされて手当てを受ける、明らかに治療中とわかる桜の木が数本、ローブに囲まれて申し訳なさそうに佇んでいました。

桜だって生き物。植樹された頃とは環境が大きく変わり、車の排気ガスや酸性雨、地球温暖化による異常気象などの影響を受ければ、病気にかかってしまいます。このように衰弱した桜を保護し、次世代まで美しい景観を残そうと活動する『くにたち桜守』というボランティアの方々がいることを、この街で暮らすようになってから知りました。

『くにたち桜守』の皆さんは、薬剤や化学肥料の力に頼らず、自然界に存在する有用微生物の力を借り、米ぬかやもみ殻(枯葉や草など)で土壌を育て、数年~数十年という長い期間を掛けて桜を自然な形で回復させる活動を行っているそうです。限られた予算の中で、息の長い地道な作業をこなして下さる桜守さんがいることで、私たちはこんなに素晴らし景色を毎年、楽しませてもらえているんですね。

一橋大学前には、地元の小学生たちが描いた桜の絵に「根っこふまないで」「くにたちの宝を大切に」「さくらを守ろう」とメッセージを添えたポスターが飾られれています。この子たちが大人になっても、毎年同じ光景が、ずっと見られるといいですね。

コロナで思う存分、お花見を楽しめない環境になってしまいましたが、歩きながら桜を眺めるのも悪くないものです。桜のあとは、新緑の季節。好きな飲み物を片手に、心地よい音楽を聴きながら生い茂る緑の下をゆっくり散歩する。密を避けたGWの過ごし方のひとつとして、いかがでしょうか。

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「国立暮らし1年目」とは

外から見たときと、内側から見たときのイメージは少し違います。そんな『国立暮らし1年目』だからこそ見えてくるものを綴るコラムです。

小倉 一恵 小倉 一恵

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