黄色い鳥に出会った [コラム]

黄色い鳥に出会った [コラム]

私がはじめて国立駅を降りたのは、今から5年前のことでした。

ここに知り合いもなく、これまで縁もなかった駅でなんとなく降りてみようと思ったのは、『黄色い鳥器店』がきっかけだったことを覚えています。

その頃の私は上京してひとり暮らしをはじめたばかり。ワンルームマンションでの暮らしにあたたかな手仕事を感じる“うつわ”を取りいれて、仕事ばかりの日々の隙間でほっと一息つけたら……そんなことを思い浮かべていました。

小さな螺旋階段を登って2階にある黄色い鳥器店に入ると、そこには大きな窓のあるゆったりとした空間が。

テーブルやカウンターには、暮らしのワンシーンのように整えられた、大切に手にとって眺めたくなる“うつわ”が並びます。どこかあたたかみを感じるのは、すべて作家の手仕事によるものだから。定番ものばかりではないので、すべての出会いが一期一会です。

好きなうつわのある暮らしを想像しながら、じっくり、じっくり選びたくなります。ああ、このお茶碗でゆっくり朝ごはんが食べられたら……。いまの暮らし方への欲がムクムクこみ上げてきたそのとき。

「よかったら、お茶をどうぞ」

店主の高橋千恵さんが、そう優しく声をかけてくれました。

静岡の農家さんから毎年取り寄せているという、深蒸し緑茶。

上京したての頃といえば、どんなに日々が充実していても、まだ地に足が付いていないような感じがしてどこか心細いもの。新しい街、新しい店に行くとき、実はちょっとした勇気が必要なのかもしれません。

だからでしょうか。熱々のほの甘いお茶を味わっていると、肩の力が抜けたようにほっとして、はじめて訪れた国立の街に迎え入れられたような気がしたのです。

「このお店を立ち上げたばかりの頃は、もっと駅から遠いところに店を構えていて、わざわざ遠くから来てくださる人を、美味しいお茶でおもてなししたいと思ったんです。駅に近い現在の場所に移転してからも、その気持ちは変わりません」と高橋さん。

このお店は、私にとって国立の「第一印象」。

そのときの来訪で私が手に取ったのは、「炊きたてのつやつやごはんを美味しくいただけそう」な大きな“おひつ”でした。

青竹のタガで締められた、木のおひつ。「銅製のタガで締められたおひつは多いけれど、竹製はめずらしいですよね」と、高橋さん。「ゆるんだり壊れたりしたときは、作り手の方にお送りすれば、メンテナンスしてもらえるので言ってくださいね」。そんな話をして、笑顔で送り出してくれました。

それから色々とあって、5年が経った今。私はそのおひつと一緒に、国立で暮らしています。

(書き手:加藤優/国立暮らし1年目)

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「国立暮らし1年目」とは

外から見たときと、内側から見たときのイメージは少し違います。そんな『国立暮らし1年目』だからこそ見えてくるものを綴るコラムです。

加藤 優 加藤 優

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