ライフスタイルがひろがる酒屋

ライフスタイルがひろがる酒屋

今も昔も、春は桜、夏は新緑、秋は紅葉、冬はイルミネーションが美しい、国立(くにたち)駅前の風景。

そんな国立駅南口から徒歩1分。創業110年の老舗酒店「せきや」は、地元に暮らす人や一橋大学生に親しまれるスーパー、地場野菜のレストランなどを有する「せきやビル」の一階と地下一階に店を構えています。

売り場には、世界中からセレクトされたワイン、日本酒、ウイスキー、焼酎、クラフトビールがずらりと並び、その数はおよそ1700銘柄以上! 東京・多摩地域でも有数の品揃えに、駅前という立地から、地元だけでなく遠方から訪れる人も少なくありません。

この記事では、クラフトビール醸造所、タップスタンド立ち上げへの挑戦など、少しずつ変わりつつある老舗の姿と、そこで働く人々の想いを届けます。

もくじ

老舗酒屋が伝え続けるストーリー

「文化が醸成される場所には必ずお酒があり、人々の交流がある」

先代がよく話していたこの言葉は、小売店の運営や飲食店への卸しなどの販売全般を手がける『せきや酒類販売株式会社』の代表・矢澤幸治さんの指針にもなっています。

文化とは、人が創るもの。カフェやバーで、現代ではサードプレイスなど多様な空間で、言葉を交わしあう人々の中心にはいつも「食」がありました。なかでもお酒は、その土地の風土文化に合わせて親しまれ、地域の特色を色濃く反映させています。

その銘柄が生まれた土地、作り手、飲み手たちの物語。全てのお酒には必ずストーリーがあります。

「『せきや』は作り手へのリスペクトを持ち、飲み手に届けるためのアイデアを出すことを惜しまない、提案型の酒屋であり続けてきました。2020年に創業110年を迎え、『私たちも、敬愛する作り手と同じ目線に立ちたい』という長年の思いを実現させるために、創業の地・国立でクラフトビールの醸造所『KUNITACHI BREWERY -くにぶる-』と、国内外のクラフト生ビールと出合えるタップスタンド『SEKIYA TAP STAND』を立ち上げました」

青春時代を国立で過ごし、静岡の醸造所『AOI Brewing』でビールをつくっていた斯波克幸さんを醸造長に迎えた『くにぶる』は、一つひとつのビールの銘柄に音楽ジャケットのようなイラストと歌詞のようなコピーをつけて、固有の世界観を伝えています。

作り手にストーリーがあるように、飲み手にはライフスタイルというストーリーがあり、つなぎ手となる『せきや』のスタッフにもまた、ストーリーがあります。

「好き」を軸に生きる人

『せきや』スタッフの井藤良平さんは、自然豊かな神奈川県逗子市出身。

ファントムブルワリー(醸造所を持たないブルワリー)として自身のビールブランドを立ち上げることを目標に、現在は『せきや』のタップスタンドや、クラフトビール売り場のセレクトなどを担当しています。

「大学入学を機に上京してからは、とにかく『好き』と思えるものに飛び込んで、インプットと経験を積み重ねながら方向性を模索しました」と、井藤さん。

ベンチャー企業が手がけるカフェや、植物を使った空間設計を手がける花屋など、とにかく勢いのある場所を選び、アルバイトやインターンとして働く刺激的な日々を過ごします。

「エディブル・スクールヤード(食べられる校庭)」をテーマに卒業論文を執筆しながら、両国駅前で有機野菜をつかったおでん屋台の立ち上げに挑戦するなど、井藤さんの「好き」のエネルギーには底がありません。

「自然が好きなんです。花や野菜、それらを育む地域に旅をする……気づけばそんなことが自分の軸になっていたように思います。そうして就職を迎えた時には、テーマは『食』に集約されていました」

井藤さんは卒業と同時に、ローカルイベントで出会ったシェフを通じて飲食系の会社に入社。なんと「料理人」を目指すことに。

「包丁も握ったこともなければ、ゆで卵の作り方すらよくわかっていない状態で、料理の世界に突撃しました。そこでも、これまでに経験した職場と同じく、興味関心を原動力にインプットと経験を積み重ねていきました。そんな姿勢が社長の目に留まり、入社半年で新店舗の立ち上げに携わらせてもらえることに。……そこで将来の夢につながる、クラフトビールと出合ったんです」

多くのビールファンがそうであるように、井藤さんにもまた、初めて飲んだ瞬間に感動を覚えたビールがあったそうです。

「それは、Epicという醸造所のニューイングランドIPAを飲んだときでした。小規模醸造所のクラフトビールって、確かにおしゃれでかっこいいけど、大手メーカーのビールに比べると割高だし、本当にうまいのか? そんな疑問が一瞬で吹き飛ぶほどうまくて、衝撃的な出合いでした」

感動から3年、立ち上げた店舗で料理とクラフトビールの経験を積んだ井藤さんは、「将来は好きな場所に根ざして、自分が主体となって発信できるプロダクトを作りたい」という発想から、ビールの作り手になることを夢見るようになりました。

そこで第2の衝撃を受けたのが、『KUNITACHI BREWERY -くにぶる-』醸造長の斯波さんが手がけたビールだったのです。

「最近はホップをたくさんつかったIPA(アイピーエー)というスタイルが流行りですが、ごまかしのきかないケルシュスタイルを、研ぎ澄まされた繊細なバランスで仕上げることができる『くにぶる』の斯波さんのもとで、どうしても仕事がしたい……そう思ったことが、『せきや』で働くきっかけになりました」

「好き」なことにはインプットの時間を惜しまない井藤さん。休日を活用して『KUNITACHI BREWERY -くにぶる-』の醸造所へ足を運び、積み重ねた知識は現在のクラフトビールの販売に活かしています。

「クラフトビールは、自分がそうだったように、世界観が変わるほど感動できる出会いにつながりやすいと思います。日本にはまだまだ、大手メーカーのラガービールしか知らないという人がたくさんいます。でも本当は、苦いもの、甘いもの、炭酸が強いもの、炭酸が少なくまろやかなもの、スムージーのようなものまで、振り幅のある世界なんです。お酒が苦手だった人も、ハマれるものがきっとある。そのことをもっと届けることができれば、お酒はライフスタイルになっていくんじゃないかと思います」

「好き」を軸に、インプットしていきたいことを見つけて、自分の仕事をつくっていく。創業110年の酒屋は、さまざまな人やストーリーを巻き込みながら、次の100年に向かって走り出したばかりです。

得意と個性を活かす

「『せきや』のスタッフには、それぞれが何かの得意分野を持っている、面白い人が多いです。でも、皆さんがはじめからそうだったわけではなく、仕事をしながら『好き』を見つけて、インプットを重ねていった結果、自然と何かのエキスパートになった人ばかりです」

井藤さんの言葉通り、『せきや』のスタッフにお酒について何かを尋ねれば、必ず何らかの知識が返ってきます。インプットを楽しんでいる人ばかりだから、『せきや』に来るたびこちらの知識もアップデートされていきます。それは、お客さんも、スタッフも同じ。

ワイン、日本酒、ウイスキー、焼酎、クラフトビールなど、多種多様なお酒のセレクトショップのような『せきや』では、商品のセレクトや棚のレイアウトにもそれぞれの分野を得意とするスタッフの声が反映されています。

ポップやポスターのデザイン、季節やお客さんのニーズに合わせた棚作りや装飾も、やりたいと手を挙げたスタッフが担います。試飲会やイベントを主催するスタッフも。

コロナ禍を経て、売り場をSNSやホームページと連動させることも大切になってきました。伝えたいことを写真や文章で発信したり、オンライン企画と売り場の構成を連動させたり。

そういったお酒以外の得意分野にも、『せきや』では仕事として手当がつきます。

代々受け継ぐ国立駅前という立地で、人が集い、文化が生まれ、広がる場所を、作り手・飲み手・つなぎ手として、ともに手がけていきませんか。

店舗情報

会社名
せきや酒類販売株式会社
HP
http://www.sekiya.co.jp/sake/
問い合わせ
042-571-0001 / order-sekiya@sekiya.co.jp

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東京都国立市中1-9-30

加藤 優 加藤 優

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