自分を知り、“まち”を知る

自分を知り、“まち”を知る

高度経済成長期に生まれた、「都心で働き、ベッドタウンに暮らす」という生き方。近年は、「“まち”で暮らし、仕事をする」生き方へと、価値観はゆるやかに移行しつつあります。

『合同会社三画舎(さんかくしゃ)』代表の加藤健介さんは、暮らしも仕事も国立に拠点を置き、“まち”をつくるためのあらゆる仕事を手がけています。“まち”って、一体なんなのでしょう?

もくじ

国立への入り口

国立に拠点を移す前は、世田谷に暮らし、渋谷で仕事をしていた加藤さん。初めてJR国立駅を降りたのは、“ほんとまち”というテーマで開いているスペース『国立本店』のイベントに誘われたことがきっかけでした。

「最初は知人に誘われた単発のイベントに興味を持ち、地域の多世代が集う国立本店という場に面白さを感じました。それから休日や仕事終わりに国立駅と国立本店を往復するうちに、国立という“まち”そのものに興味を持っていったんですよね」

もともと国立には縁もゆかりもなかった加藤さん。名古屋で生まれ、神奈川で育ち、大学は明治大学の建築学科に進学。そこで初めて“まちづくり”という分野に出会いました。

「建築学科に入ってから、多世代かつ多彩な人と関わることが多くなり、建築を取り巻く社会環境のことを幅広く知ることができました。僕は建築設計などのハード面があまり得意ではなくて、そこで生まれる人の営みといったソフト面に興味を持つようになりました」

広範な研究対象を持つ「都市建築デザイン研究室」に所属し、研究室が20年以上研究対象としてきた岡山県高梁市に住みながら研究をしたり、沖縄で合宿をしながら商店街の人と関わったり。

そこで出会ったのは、まちづくりの分野で想いやスキルを持ち寄り、世代や地縁、専門分野を超えて、地域をより良くしようと活動している人たちでした。

「人がそんなにエネルギーを燃やすことのできる、“まち”って一体何だ? そんな小さな興味が、その後のまちづくりコンサルタント会社への就職、国立への興味、合同会社三画舎の立ち上げ、これまでに携わってきた様々な仕事や活動にもつながっていきました」

まちづくりの仕事へ

2010年、まちづくりの分野では老舗であり、“住民参加型のまちづくり”を大切にしている『株式会社石塚計画デザイン事務所』に就職。一般的な“新卒学生の一斉就活”ではなく、まちづくりの延長上にある就職でした。

「大学院の単位もすべて取り終え、卒業研究も終わりに差し掛かった頃。2008年冬のリーマンショックの影響で、就職予定だったディベロッパーから内定を取り消されました。他の就職口への斡旋はあったものの、なんか違うなぁと感じてそのまま研究室に残ったんです。石塚計画デザイン事務所との出会いは、研究の一環でまちづくりのプロジェクトに一緒に取り組んだことがきっかけでした」

もともと、独学でデザインの勉強をしていた加藤さん。趣味の写真やブログの延長で『Photoshop』、プレゼンボードづくりで『Illustrator』、修士論文のレイアウトにこだわりたいと『InDesign』を覚えてきたことが、地域の活動でも重宝され、マルシェのチラシやミニコミ誌の写真撮影などといった頼まれごとを請け負うようになりました。

「“まち”への間口は、デザインが広げてくれたのかもしれません」

まずはアルバイトに誘われ、一年後に社員になり、デザインのスキルを実践の中でより精査させていきました。手がけたものの多くは行政の刊行物で、記念誌や子育て情報誌などの書籍、観光やまちあるきなどを楽しむマップ、地域の子どもから大人までを対象とした絵本なども。

また、 “住民参加型まちづくり”の実現には欠かせない経験も積んでいきました。

同じ地域に暮らす、はたらく人の多様な意見を、できる限りたくさん出し合い、一つの方向にまとめていく様々なワークショップの場面でファシリテーターを務め、一年が経った頃、もともと「ネガティブで、緊張しがちで、話し下手」だったという加藤さんは、「緊張を一切しない」ように変わっていたそうです。

「緊張は自信のなさの表れだったんでしょうね。“まち”には多様な人の視点や意見がある、それが当たり前だという中で、ものごとを広く俯瞰的に見られるようになって度胸がついたし、殻に閉じこもって緊張なんかしている暇はない、それよりももっと面白いことがしたい、そういう考え方に変わっていったと思います」

“まち”を知ることは、自分を知ること

仕事も暮らしも地域活動も、切り分けることなく、一緒くたにして取り組む方だったという加藤さん。国立では同じような考え方を持つ人との出会いが多く、仕事がプライベートへ、プライベートが仕事へと、良い相互作用が起こりやすい土台がありました。

「国立はまちづくりの事例としても有名ですが、それよりも実際に魅力に感じたことは、個性を持つ人や、相手の個性を大切にする人との出会いが多いことです。そういう人の多くが『自分たちの“まち”は、自分たちの力でよくしていこう』と考えています。その様子を見て関わっているうちに、自分もここにハマりたいと思うようになりました」

2015年、国立を訪れるきっかけとなった「国立本店」の運営を引き継ぎ、2017年、国立市内に住所を移し、2018年、国立に法人登記。国立市の新書シリーズ『国立新書』の編集に携わり、お隣のまち国分寺市の連続講座『こくぶんじカレッジ』のプログラム作りや、地域の会社・お店のブランディングを手伝うなど、加藤さんは“まち”に巻き込まれていきました。

「よく勘違いされるのですが、国立のためだけに仕事をしたいわけではありません。国立は日本の“市”の中で4番目に面積が小さく、その中で成立できるからこそ、それだけを見ていると視野が狭くなります。国立に拠点を置きつつ、“まちづくり”を軸に他の地域とも関わり、外からの視点はどんどん取り入れて、実験と応用を繰り返していきたいと思っています」

何よりも、地に足をつけた“まち”があることは、仕事の面でもプラスになるそうです。

「海外に行った時、日本のことを説明できるようになりたい、という話をよく聞きます。もちろん日本でもいいけれど、自分ごととして捉えやすい“自分のまち”を説明できるともっといいですよね。例えば面白い人がいて、もっと知りたいと思うのは、その人が自分のことをよく知り、うまく伝えられるからこそ成り立つものです。自分のこと、自分のまちのことをもっと知れば、そこから会話や説明といったコミュニケーションが生まれ、新しい世界も広がります」

そのおかげか、『合同会社三画舎』は、仕事を得るための営業をかけたことはありません。ビジネス上のみの付き合いはなく、関わる人とは「“まち”をより良くしたい」「それが、自分の仕事、暮らし、活動を良くすることにもつながる」という価値観の共感からつながっているようです。

「動画、ウェブサイト、イラストなど、自分たちが持たないスキルも多くありますが、スキルを持つ地域の人たちと一緒に組むことで、色々なプロジェクトを実現させています。これからも、不動産、ファッション、音楽……などなど、多彩なスキルを持つ地域の人と出会うことができれば、地域の仕事の可能性は人の数だけ、無限に広がっていくと思います」

マクロな視点のまちづくりだけでなく、リアルな人とのつながりやアクションが生まれる『国立人』の運営などはミクロな視点。捉えどころのない“まち”だからこそ、ソフトとハード、ミクロとマクロといった「両面」から捉えることが必要です。

「自分が住んでいて、はたらいていて面白いと思える“まち”にしていきたいですね」

それこそが、暮らしはたらく“まち”の選択肢として、次世代の人々から選ばれることにもつながっていきます。

会社情報

会社名
合同会社三画舎
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問い合わせ
kato@sankakusha.net

合同会社三画舎の「わたしの履歴書」

わたしの履歴書

代表 加藤健介

人の想いやストーリー、その温度を伝えます。 わたしの履歴書 

東京都国立市中1-7-62(国立本店内)

加藤 優 加藤 優

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