醸される食文化

醸される食文化

世界中にある、多種多様な食文化。オンラインではいつでもその映像や画像に触れることができますが、五感で味わうことができるのは「飲食店」の醍醐味です。

『麦酒堂KASUGAI』は、国立のクラフトビール醸造所『KUNITACHI BREWERY -くにぶる-』併設のビアレストラン。国立で100年以上続く酒屋『せきや』の初となる飲食店です。

ドイツやベルギー、イギリス、アメリカなど、ビール文化はその土地の文化とともに発展を遂げました。そのビアスタイルを継承しつつ、現代のライフスタイルに合う新しいビールを生み出す『くにぶる』をはじめ、KASUGAIでは常時12種類の新鮮な樽生ビールを味わうことができます。

人が生み出した文化を、現代の私たちが受け取り、引き継ぐ。そんな人と文化の“かすがい(掛け金)”になることを目指す『麦酒堂KASUGAI』で、その一端に触れてみませんか?

もくじ

「売り手」から「作り手」へ

「ビールの醸造所を立ち上げて、そこで醸すできたてのビールを味わうレストランを併設したい」
KASUGAIは、前オーナーの故・関喜一さんのそんな想いからスタートしました。

閑静な住宅街の中でもひときわ目を引くKASUGAI。ここが建つ前は、駐車場として使われていたそうです。

「日本文化が大好きで、酒は文化の中心だ、とよく話していた前オーナーの想いが、この建物にはありあまるほど詰まっています。昔は甲州街道沿いにあった『せきや』は、昔ながらの日本家屋で、引き戸を開けると味噌の香りが漂う、よろず屋のような店だったそうです。その思い出と、大好きだった時代劇の風景なんかが混ざり合っているように感じますね」
と、『せきや酒類販売』代表の矢澤さんは話します。

駐車場から人が集うまちの長屋へと生まれ変わったKASUGAI。ですが、2020年のオープン直後にコロナ禍に見舞われ、幾度も休業。そのさなかに前オーナーも急逝してしまいます。

2023年にコロナが明けて、再び人が集えるようになりました。国立で醸すビール、せきやが厳選したこだわりのお酒やドリンク、季節の料理とのペアリングにこれまで以上に力を入れて、KASUGAIは再び“人と文化のかすがい”を目指していきます。

世界が広がるきっかけ

「働き始めて約一年、くにぶるの定番ビールと限定ビールを一巡してみて、その特徴や世界観への理解が深まりました。毎月出てくる新作ビールは、一つひとつにクラフトならではの物語性があり、今の季節に合うように設計された繊細な味わいがある。合わせる料理によって楽しみ方の幅もさらに広がります」

そう話すのは、2022年12月からKASUGAIで働き始めた小林なおさん。

10年以上のビアパブ経験を生かし、半年かけて仕入れ・仕込みの効率化やキッチンの動線などのオペレーションを整え、コロナが明けて店が繁盛してもスタッフが混乱せず、休みをしっかり取れて気持ちよく働ける仕組みを作り上げていきました。

小林さんのビールへの興味は、中学生の頃の「音楽」への興味からはじまったそうです。ヨーロッパ音楽が好きで、18歳で初めてアイルランドに渡ったときのこと。ギネスビール工場で初めてスタウトを知り、「かっこいい、面白い」と感動を覚えます。

そして20代になり、小林さんはとあるビアバーへ。そこで世界が広がるきっかけがありました。

「スタウトが好きだと伝えたら、出てきたのがベルギーの『CHIMAY BLUE(シメイブルー)』。思い描いていた香ばしく苦い味わいではなく、カラメルのような香りと甘みを感じる味わいに、いい意味で裏切られた! と思いました。知らなかった世界がビールを通して広がるんじゃないか、その一端に触れていくのはすごく面白そうだと感じたんです」

やがてブラッセルズのビアパブで働きはじめたことで、ビールや仕事はどんどん面白くなっていきました。クラフトビールブームが起こり、根強いファンのいるトラディショナルなビールだけでなく、現代に続くような革新的で多様なクラフトビールが、どんどん増えていきました。

そしてコロナ禍を経て、地元に貢献したいという思いが強まり、KASUGAIの門戸を叩いた小林さん。

「KASUGAIはこれまで、地元に愛される店を目指してきました。これからは、遠方や都心からも足を伸ばしたいと思える、国立やお酒への興味が広がる店づくりに挑戦したい。ここにしかないビールと、いい意味で裏切りのあるサービスで、ビール好きな人、ビールが好きじゃない人、今はお酒が飲めない人にも楽しんでもらえるKASUGAIになっていきたいです」

文化が醸成されていく

「くにぶるのビールの魅力は、“発酵”の力を感じられること。麦やホップなどの原材料に目を向けたビールが多い中、くにぶるは“発酵”が中心にあります。日本酒の蔵元の考え方にも似ていますね」

くにぶるでは「醸造の仕事は、酵母のお世話と清掃だ」とうたっており、酵母がより発酵しやすい環境づくりに力を入れています。多種多様なビールには、いずれも発酵由来の複雑なうまみがあります。

「例えば春限定のセゾンビール『春のあわい』には、ベルギー料理の『うなぎのグリーンソース』を、イタリアのサルサベルデで仕上げたものを合わせてみる。そんなミックスカルチャーなメニューと、発酵由来の複雑なうまみを持つビールとのペアリングで、お客さんの期待をいい意味で裏切ってみたいですね」

ホールでは、ビールの物語性や特徴を「心地よく伝える」ことを大切にしています。

「最初にメニューをお出しするとき、おすすめを簡単に説明します。お客さんが興味を持って質問してきてくれたら、丁寧に伝えます。『聞かれたことに答えるだけ』ではサービスとは言えません。自分の知識の引き出しを増やして、相手が“興味”から“好き”になるきっかけを見つけられるように、うるさくなく心地よく伝えるのがKASUGAIのサービスです」

料理やお酒という、人が作る多様な文化。それを伝えるのもまた人であり、受け取る人も多種多様。

“興味”がどこで“好き”に変わるかはわからないもの。

ふらりと一人飲みに来て、または友人や仕事仲間に連れられて。あるいは学生の頃に親や祖父母に連れられてきたKASUGAIで、なんとなく受けていたサービスを覚えていて、大人になってからビールの多様な文化に触れてはっとする。

10代の頃に触れた文化が、20代で「飲める」ようになったらさらに広がる。ビールをはじめお酒には、そんな「世界を広げる」力があるのかもしれません。KASUGAIはそんなきっかけのある場所、文化が醸成される場所になっていきます。

店舗情報

店名
麦酒堂KASUGAI
本社所在地
東京都国立市東3-17-28 草舎ビル
HP
https://b-kasugai.com/
問い合わせ
kobayashi@b-kasugai.com

東京都国立市東3-17-27

加藤 優 加藤 優

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