やぼな夜 第4話 ー酒処たちばな編ー

やぼな夜 第4話 ー酒処たちばな編ー

だいぶ暖かくなってきたエイプリルフールの日。

待ち合わせより少し早く谷保駅に到着したのでひとりで散歩します。第1話で伺った『旅路』さん、第3話で谷保のお店を教えてくださった『ニコノマニマ二雑貨店』さん、そのまま歩いていると、『やぼな夜』取材チームの知り合いの方が営む『スナック水中』さんを発見し、そして右側に目をやると提灯が素敵な『いづも』さん。中を覗くとカウンターにはたくさんのお客さんが。ふらりと歩くだけで訪れたい場所がどんどん増えていきます。

やがて取材チームと合流。やぼな夜の日はいつもお店を事前に調べずに、歩いていて偶然見つけたり、その時会った人にお勧めしてもらうので、その日もなんとなく歩いてみるところから始まりました。第3話で伺った『千花』さんを通過したところで、「酒処」と書かれた赤い提灯を発見。「今日はここに入りたい!」と直感的に思いました。

「酒処」に惹かれて

店内は入って左側がカウンター席、右側がテーブル席となっていて、テーブル席では常連さんと思われる方々がお酒とお料理、会話を楽しんでいらっしゃいます。

私たちはカウンター席に着席。大将と思われる方が「飲み物どうする?」と話しかけてくださり、梅干しサワーと秋田の日本酒「飛良泉 山廃純米」やお料理を注文。

カウンターにはもう一人若旦那的な方が頭にキリッとタオルを巻き、作業をされています。奥には白髪の女将さんらしき方のお姿も。みなさんはご家族なのかもしれません。

飲み物とわかさぎのマリネとお蕎麦のお通しが運ばれてきました。梅干しサワーはしっかり弾力のある梅干しで、潰して混ぜると梅干しの塩味と焼酎がとても合って美味しく、さっぱりすっきりどんどん飲めてしまいます。

次に現れたのは、高知産石鯛のお刺身。脂がのっていて弾力があり、味が濃い!

料理を運んできてくださった大将の言葉のイントネーションが少し気になった私は、「もしかしたら故郷が近いかも?」と思ってたずねてみました。北海道の小樽がご出身だそうで、青森出身の自分としては同じ北の方出身ということで嬉しくなりました。

2024年で酒処たちばなさんは30年を迎えるそうです。今の場所では25年、その前は近くの別の場所で営業されていたのだとか。

舞茸のホイル焼き、アスパラ(ボイル)、炭火焼 串焼き5点盛りが運ばれてきて、テーブルが華やぎました。私は2杯目に紫蘇サワーを注文。

舞茸のホイル焼きはふわふわとしていて、アスパラは茹で加減が絶妙なのか味が濃い。串焼きは炭火で時間をかけて焼いているためか、外はカリッと中は柔らかく、特にレバーが甘くクリーミーで美味しかったです。

紫蘇サワーを出してくれた若旦那さんに「ご家族で経営されているんですか?」と聞いてみると、「そうです」というお返事が。若旦那(大将からすると息子さん)は生まれも育ちも国立だということで、いつもの質問をしました。

谷保ってどんなところですか?

うーーん、と考える若旦那さん。

ほどなくして「悪くないところ」というお返事。

そして「なかなか言葉ではうまく言えないな〜」と言いながらまた考えてくださり、

「不思議なところ」ともおっしゃっていました。

飲食店の多い谷保ですが、店主が高齢化していたり、二代目のいるお店も少ないのだそう。その中で、一代目であるご両親と共に働いている若旦那(まだ継いでいないそうです)の中には、色々な想いがあるのだろうなと想像しました。

時間は有限

「人生でやれることって限られているよね」という話になりました。10代、20代では思いもつかなかった「終わり」や「タイムリミット」がだんだんと現実的になっているような気がします。

雑談していると、大将は80代だということがわかり(本当にお若いので驚き!)、大将に比べたら自分など半分程度しか生きていないわけで、まだまだペーペーなのですが、それでも日々の中に漠然とした不安や焦りのようなものがあり、そういったものを抱えながらも、それでも楽しく生きていきたいよねと、美味しいお酒とお料理、そして安心できるお店の雰囲気も相まって、取材チームの話にも花が咲き、夜は更けていきました。

私は3杯目に再び梅干しサワーを注文。やがて鯨ベーコンネギ和えとカキフライが到着。

「鯨ベーコンとネギと辛子をよく混ぜて食べると美味しいよ」、と大将が教えてくれたので、よく混ぜていただきます。鯨ベーコンは祖父が好きで、小さい頃に私ももらって食べていた思い出があり、とても懐かしい味でした。カキフライには臭みが全くなく、ふわふわでクリーミー。

誰もが育った環境、性格、考え方が異なるように、同じまち、お店に対する考え方もみんな違って当たり前。親子二代、それぞれの想いや考えを持ちながら、美味しいお酒やお料理を変わらず提供し続ける酒処たちばなさんのご家族は素敵だなと感じました。一人の人間の人生は有限でも、その意志を家族や他人であっても誰かが継いで、次の時代も続いていくと考えると、自分の限られた時間に焦らずに、誰かのためにもう少しゆったりと、ちょっと希望を持って、今を過ごしていけそうだと思った4話目の夜でした。

帰り道、大学通りで一人イヤホンで音楽を聴きながら歩いていたのですが、『Hello Radio (QURURI ver) 』が偶然流れてきて、国立の桜の景色とよく合いました。今回の『やぼな夜』では「景色と記憶」をもらったように思います。次の夜も、楽しみです。

(取材 木村玲奈 / 編集 国立人編集部)

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「やぼな夜」とは

「やぼってどんな場所?」を探るべく、谷保の夜へ繰り出します。

木村 玲奈 木村 玲奈

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