さすらい人になった『やぼな夜 第6話』から、すっかり寒さが増した年末。今宵も取材チームは谷保駅に集結しました。
クリスマスを目前に控えた平日、なんとなく鶏肉が食べたい気分の取材チームは、焼き鳥の匂いに吸い寄せられるように『やきとりとサワー 国立FLAT』を訪れました。
南武線の線路沿いにあるこちらのお店は、2020年3月にオープンしたとのこと。一階のカウンター席のすぐそばには石油ストーブがあり、冷えた体はじんわりポカポカしてきます。
古い建物がいい感じにリノベーションされ、木の温もりも感じられる店内。カウンターの目の前には色とりどりのアヒルが飾られています。
店名の通りサワーの種類が豊富で、どれも美味しそう。悩みながら季節の果物のモヒート(今日はみかん)を選び、食べ物と一緒にオーダーします。
年末まで本業のダンスの仕事がかなり忙しかったこともあり、一杯目の乾杯から感無量です。クリスマス前の賑やかな雰囲気と、お店のあたたかな雰囲気でなんとも嬉しい気持ちになりました。
まずは、おまかせ5本盛り。一本一本丁寧に串打ちして炭火で焼き上げたお肉は肉厚で、美味!
東北出身者としてはつい注目してしまうのが、メニューに『岩手さいさい鶏』を使用しているとあったこと。調べてみると岩手県の銘柄鶏らしく、植物性原料にこだわった飼料を与えているのが特徴とか。そのために鶏肉独特の臭みがなく、鶏肉が苦手な人にも食べやすく、脂身も少なめでさっぱりとした味わいが人気だそうです。
取材チームのメンバーが地元の人におすすめしてもらったという『至福のレバー』。とろりとしたレバーにごま油塩が最高に合いました。
やきとりとサワーを楽しみながら、しばし近況報告をし合います。その中でも驚いたのは、出張先の東北で車を運転していたら、急に熊が飛び出してきたというエピソード! 熊は車に衝突し、そのまま山の中に消えていったそうです。メンバーに怪我はなかったものの、車はレッカーされて廃車に……。
実は運転していたメンバーは2023年が本厄だったそうで、そこから厄年の話題に移ります。私の故郷の青森市には、ちょっと特殊なお祓いの風習があり、厄年にはネックレスやベルト、ネクタイなど細くて長いものを持参して、ご神前でお祓いしてもらいます。なぜ細くて長いものなのかは不明ですが、私も風習にならってベルトを持ってお祓いに行きました。
そもそも厄年って何なのだろう、と思ってその場で調べてみると、数え年で男性が25・42・61歳、女性が19・33・37・61歳になる一年間のことをいい、その前年を前厄、後年を後厄として、それぞれ3年間の注意を促す風習とのこと。中でも、男性42歳、女性33歳は「大厄」と呼び、特に注意が必要な年齢だそう。
科学的な根拠は不確かですが、平安時代の書物には既に記載があるそうで、旧来から根強く信じられていることがわかります。根拠はなくても、厄年だとされている年齢にはなんとなく納得感があるような気がしませんか? 私自身も経験しましたが、30代は特に顕著に身体が変化していった気がします。きっと昔はそんな身体の変化も生死に関わることだったのだろうし、身体の変化に合わせて考え方や行動を変化させていくのは、現代でも同じなのかもしれません。
話もお酒も進んでいると、カルボナーラのポテトサラダ、とろける低温調理のレバーが運ばれてきました。ポテトサラダは柔らかめで、口触りはデザート的(あくまで個人的見解です)。レバーは名前の通り、とろけます。
帰り際、アルバイトらしい店員さんに「谷保で働いていてどうですか?」と尋ねると、「自分は隣町の小平市の美大に通っているので、このあたりにはほとんど馴染みがなくて……でも良いところですね」とのこと。続いて「このお店にはどうしてあんなにアヒルが置かれているのですか?」と尋ねたところ、「それは……やきとりだからじゃないでしょうか?」とのことでした。
寒空の下で「二軒目行きましょう!」と盛り上がり、『やぼな夜』初のハシゴ酒へ。
さあ、どこに行こうかと考えていたら、「近くにインド・ネパール系のレストランがあって、カレーがメインだと思うじゃないですか。なぜかお店の前に飾られている看板ではラーメンがオススメされていて、気になっていた!」というメンバーの言葉に、谷保駅北口にある『アジアンレストラン&バー サハラ』に向かいました。
店構えはまさしく、アジアンカレー屋さん。ですが、広々とした店内のカウンターには、色んなお酒のキープボトルがずらり。谷保に根ざし、谷保の人に愛されてきたのであろう年季を感じます。
さっそく注文したラーメンには、焼いた鶏肉、ゆで卵、たっぷりのネギが乗っています。見た目はアジアっぽいスパイスが効いていそうな雰囲気ですが、実際には少し中華風のあっさりとした優しいスープで、するすると進みます。お酒を飲んだ後に食べたくなる、優しいラーメンです。
お店の方がサービスしてくれた、えびせんとパーパド(パパダム)に、昔イギリスで仕事をしていた時、現地のインド料理屋さんでよく食べていた味を思い出しました。日本ではイギリスで食べたものと同じような味になかなか出会えないので、この味のためにまたサハラへ伺う気がします。ビールとの相性も良し。
この夜、特に印象的だったのが、サハラの店員さんの日本語がものすごく流暢で、佇まいも日本人のような落ち着き、柔らかさがあったこと。こんな時にいつも思うのは、土地や環境に適応してその地域の風習や慣習に従うということは、人の態度や雰囲気、話し方、佇まいまでも変化させるのだな、ということです。
振付家としては、それも一種の振付だと思いながら生きているところがあり、谷保のお店の人々が、いつ、どこから谷保へやってきたのかはわかりませんが、私自身もまた、青森から東京へやってきて、「東京に色々振り付けられた状態で、谷保に居る」ことを考えると、なんだかその場と空間、時間を一緒につくっているような気持ちになりました。
ここではひとつのお店ですが、コミュニティと呼ばれるものや、まち、むら、都市はこうやって形成されている(共存、もはや共演している!?)のかもしれません。そう考えると、この『やぼな夜』の取材を経て私自身が感じている「谷保ってどんなところ?」は、ここで生まれ育ってこなかった自分としては、やっぱり「谷保はたずねるところ・遠いところ」なのです。ですが、この取材を通して、谷保という舞台をたずねる“たずね人”として“振り付け”られてきたと考えると、谷保という作品に出演する準備がやっと整ってきたようにも思います。
谷保に暮らす人、はたらく人、訪れる人、それぞれが、それぞれの佇まい・居方で谷保に集う。2024年もそんな『やぼな夜』を楽しみたいと思います!
みなさま、良いお年をお迎えください。
(取材 木村玲奈 / 編集 国立人編集部)
「やぼってどんな場所?」を探るべく、谷保の夜へ繰り出します。