アートとまちの交差点

アートとまちの交差点

新潟・越後妻有の大地の芸術祭や、ヴェネチア・ビエンナーレ。ある特定の地域の名前を冠し、アートを媒介に地域との関わりをもたらす、そんな取り組みについて一度は耳にしたり、足を運んでみたことがある人も多いはず。そんな“アートプロジェクトのあるまち”が、全国的にも増えつつあります。

2021年、『ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)』は、国立市、東京都、一般社団法人ACKT、そして芸術文化の創造・発信を推進するアーツカウンシル東京と協定を結び、「まちを舞台に編まれる芸術と文化」をテーマに、新たなまちの価値を生み出すためのプラットフォームとして生まれました。

もくじ

国立とART -芸術文化-

国立市のアートの取り組みは、遡ること2015年。山口県宇部市のUBEビエンナーレ(野外彫刻展)を参考に、『くにたちアートビエンナーレ2015』が立ち上がりました。公募によって市内外から集まった彫刻作品の中から、受賞作は現在も国立のメインストリート・大学通りの緑地帯に展示されています。

作品が日常に溶け込み、気軽に触れることができる一方で、市民が“結果”を見るだけではなく、もっと“過程”に関わることのできる取り組みができないか、という声も上がっていました。

そんな中で、アートビエンナーレ関連企画として『Play Me, I’m Yours Kunitachi 2018』がはじまりました。英国のアーティスト、ルーク・ジェラム氏によって世界中で実施されているアートプロジェクトで、『Play Me, I’m Yours(私を弾いて)』という名前の通り、その土地のアーティストの手で装飾されたピアノが街中に置かれ、街の人に自由に弾いてもらうというプログラムです。

『Play Me, I’m Yours』は、国立市が日本で初めて実施した自治体であり、同時に国立市で初めて実施されたアートプロジェクトでもありました。

実施の過程では、まずは装飾できるアップライトピアノの公募から始まり、近隣のアーティストによるピアノの装飾過程も一般公開されました。

準備段階から多くの人の参加と協力があり、やがて街中に10台のピアノが設置された15日間は、ピアノを介した自由なセッションやコミュニケーションが至るところで起こり、遠方からも人が訪れるなど、これまでになかったような賑わいが生まれました。

このプロジェクトによって、ピアノの音色が街を彩ることはもちろん、「アートプロジェクトに参加する」という“体験”そのものが、まちの人々にとって忘れることのできない価値あるものとして根ざしていったのです。

アートプロジェクトとは、アート作品そのものではなく制作のプロセスであったり、アートを媒介に人々がつながることで、新しい取り組みや行動を起こしていくことを目的としています。

これを受けて、国立市では改めてアートビエンナーレのあり方を考えていく市民参加型のワークショップも開催されました。

こうした一連の流れや取り組みの中で、国立市が掲げる『国立市文化芸術推進基本計画』にもとづき、アーツカウンシル東京の“アート活動のための場所や人を東京の至る所に点在させる”『東京アートポイント計画』の一環として、国立に新たな文化をつくる多様な人が集まり、活動を育むプラットフォームを構築することを目指す「ACKT(アクト/アートセンタークニタチ)」が立ち上がりました。

まちでACT(動き出)し、育てるアートプロジェクト

2022年夏、大学通りの緑地帯に、『・と -TENT-』と書かれた大きなテントが出現しました。

これは、見落としてしまうほどに見慣れたいつもの風景の中に、ランドマークとなるテントを仮設することで、新たな視点やアクションを創出することを目指したプロジェクトです。遠巻きに見る人、近寄る人、テントの周りにいる人に話しかける人……様々な人から「まちの様子」や「まちの歴史」が集まりました。

2023年1月、国立市の南側に広がる谷保(やぼ)では、「土器」をテーマとした『谷保村式土器 -YABOMURA DOKI-』が開催されました。谷保を知る人、知らない人、谷保に来たことのない人など、市内外から参加者が訪れ、土器を作る過程で縄文時代の谷保の歴史や暮らしを学びました。

2023年5月、JR南武線「谷保駅」南口から徒歩30秒の場所で、長く空き家になっていた店舗を改装し、ACKTのはじめての拠点『さえき洋品●(てん)』が生まれました。

地元の設備会社『ニッポー設備株式会社』さんにトイレの改装に協力をいただき、国立市ゆかりの造形作家・関田孝将さんの監修のもと、ACKTのメンバーやCAST(活動に関わる人々)とともに施工を進めています。

こうした拠点を増やすことは、ACKTの『遊◯地 -YUENCHI-』というプログラムの一環でもあります。空き家や空きスペースなど、まちの至るところに眠っている場所に新たな光を当て、これまでにはなかった光景や交流を生み出すプログラムです。

CAST -活動に関わる人々-

ACKTの最初の拠点『さえき洋品●』のオープンと同時期に、『Kunitachi Art Center 2023』がスタートしました。

2023年5月20日から6月4日までの15日間、国立市内のアトリエ、ギャラリー、カフェ、雑貨店などが会場となり、市内を横断しながらアートやまちの新しい発見を促すプロジェクトです。

期間中は、国立市役所に隣接する『くにたち市民芸術小ホール』でアーティストが公開制作を行うプログラム『GEI SHOW HALL』や、作家のアテンドで巡るツアーも開催。

普段はアートとの接点がない人も気軽に参加でき、いつの間にか空間を共有している、そんなしかけを生み出しています。

暮らす・はたらくまちをよりよくしたい。そう思う人は多いけれど、例えば「農」「福祉」「子育て」「教育」といった従来の枠組みでは拾いきれない、新しい価値や視点もまた、まちには無限に広がっています。

地域課題の解決のためだけでなく、まちに張り巡らされたアートや文化の活動に触れる過程で、もしかしたら自分だけの課題や興味関心が見つかるかもしれない。そうした気づきを得て、アクションを起こす人をまちに増やしていくことが、ACKTが目指す未来でもあります。

まちに広がるアートや文化は、やがて私たち一人ひとりの中にも広がっていきます。その観客として、またはCASTとして、国立でACT(動き出)しませんか?

プロジェクト情報

事務局
一般社団法人ACKT
HP
https://www.ackt.jp/
問い合わせ
info@ackt.jp

東京都国立市谷保5014

加藤 優 加藤 優

この記事をシェアする