木々が育ちあうように

木々が育ちあうように

“福祉“ってなんだろう?

多様な価値観や個性が尊重されつつある時代。福祉とは、さまざまな人の生き方を支える、私たちのすぐそばにあるもの。『滝乃川学園』は、そんな時代が訪れるずっと前から、福祉を見つめなおそうとしてきた場所なのかもしれません。

矢川駅から徒歩5分。多摩川の源流の一つ“ママ下湧水”のまわりの自然環境を守るように、滝乃川学園の敷地は広がっています。

1891(明治24)年の創立以来、ゆるやかにその歴史を刻み続けてきました。園内にある国登録有形文化財や滝乃川学園ガーデンを訪れる“お客さん”と、職員や利用者さんが「こんにちは」と挨拶を交わし合うのが、ここでの普段の光景です。

暮らし働く利用者さんだけでなく、この場所が気に入って敷地内の職員住宅に家族ぐるみで暮らす職員も多いそう。

時間がゆっくり流れるのどかな風景、そこで育まれる家族のような関係性。多様な人同士が混ざり合う、滝乃川学園が育む生き方とは?

もくじ

ゆるやかに育まれる関係性

小さな子どもから高齢の方まで、創立120年以上にわたり、滝乃川学園は社会の中で困難な障害を持つ人たちを支え続けてきました。

「マニュアルの型に嵌められない」「正解がない」と言われる知的障害。その人の個性によって多様性を持つことから“スペクトラム障害”と呼ばれる知的障害を持つ人たちなどが、ここで暮らしたり働いたり、社会生活を営んでいます。

だからなのか、滝乃川学園では、福祉の学歴や経験にとらわれず、とても多様な生き方をしてきた職員が多いのが特徴的です。

和歌山から上京し、「25歳まではいろんな仕事や遊びを経験したい」と考えていたという髙地さんは、滝乃川学園との出会いについてこう話します。

「ある保育園で働いていたとき、ダウン症、自閉症の子どもとうまく意思疎通ができなくて。昨日は自分で靴下を履いて散歩ができたのに、どうしてか今日は靴下も履けない、信頼関係を作るのも一進一退で。これまでの自分の常識や価値観の狭さを実感して、同時に、障害を持つ人と関わり方や、その仕事の様子が見てみたいという好奇心が湧きました」

まずは、都内の6つの障害者施設を見学することにした髙地さん。その中でも滝乃川学園の雰囲気は特別だったといいます。

「閉鎖的な施設が多い中で、滝乃川学園は風通しがいいというか、コミュニケーションの循環がありました。そのためか、働く人や利用者さんの様子もとても自然に見えたんです」

イベントスタッフ、夜間警備、寿司屋など、さまざまな仕事経験の中でも「今の仕事が一番楽しいし、ずっと続けたい」と感じているそう。

「やればすぐ成果が現れる仕事はたくさんありますが、この仕事はすぐに成果が出ないことばかりです。利用者さんの人生や成長は、とてもゆっくり進みます。自分の働きかけに、利用者さんのレスポンスがあるのは1年後かもしれないし、10年後かもしれません。この仕事に向いているのは、粘り強いのともまた違う、ゴールを見据えつつじっと“待てる”人なのだと思いますよ」

家族のような団欒

「入学おめでとう」「制服かっこいいね」「みんなで写真撮ろう」……入学式から帰宅する子どもたちを取り囲むのは、親戚のおじさんおばさん、ではなく、自然と集まる“滝乃川学園ファミリー”です。

「ここの子たちはみんな可愛いし、お出かけやドライブも全部いい思い出で、こんなに楽しいことが仕事で本当にいいのかな?」と笑うのは、子どもたちが暮らす『常夏寮』で働く木島さん。

「楽しい」という言葉と笑顔が明るい木島さんですが、新人の頃には苦労もあったそう。そのエピソードを聞かせてくれました。

「ここにはしゃべれない子も多く、“アピール行動”といって、理解はしているのにあえてスムーズな行動をとらず自分の思いを伝えようとする子も多いんです。信頼している職員相手だと素直なのに、若い新人相手には試すような行動をとったりもして」

常夏寮では、子ども1〜2人あたりを職員1人が担当します。木島さんが最初に担当した子は「ここでは自分が先輩だ」とばかりに、物を隠すなど数々のちょっかいをかけてきたそう。

「先輩職員に助けられつつ、その子と2人きりの時間をたくさん過ごしました。相手が感情をぶつけてくれば私も感情をさらけ出して、怒ったり泣いたりもして、春から夏になる頃にようやく対等な関係が築けていけたんです」

ここの人たちには、表面上の建前なんか通用しません。自分が本音でぶつかれば相手も心を開いてくれる、直球コミュニケーションの応酬なのです。

やがて木島さんは結婚し、産休・育休を経て母親になったことで、これまでとは違った「母親目線」も持つようになったといいます。

「一人で靴が履ける、ちゃんとお皿から食べられる、字が書けるようになる……自分の子の成長スピードよりもゆっくりだけど、障害を持つ子たちも確実に成長しています。勉強が好きな子、料理が好きな子は、ちゃんとそれを伸ばして、将来自信がつくようにしてあげたいですね」

一番うれしいことは「利用者さんの成長」であり、同時に「利用者さんと接しながら、自分の行動も見つめ直している」と滝乃川学園の職員たちは口をそろえます。相手のレスポンスを待つ間、自分自身に問いかけることも多いそう。ここで成長しているのは、子どもたちや利用者さんばかりではないのかもしれませんね。

人と、地域と、福祉が混ざりあっていく

滝乃川学園には、児童部、成人部、地域支援部、グループホームなどの事業部があります。その中にも建物フロアや委員会ごとのチームがあり、研修のほか、意見交換やコミュニケーションも気軽にとっています。

「正解のない分野だからこそ、日々の情報共有は大切です。同じ知的障害でも人によって違う現れ方をしますし、それぞれの職員に対しても違う現れ方をします。相手に合わせて接し方を変えるのは、人間関係と同じですよね」と話すのは、入社4年目の守谷さん。

「はじめて見学に来たとき、環境や人の雰囲気がすごくいいと感じて。働きはじめてからは、先輩や同僚たちだけでなく、地域の人たちも助けてくれることが多くて、1人で困るということがないんですよ」と話すのは、敷地内の職員住宅で暮らしながら働いている石井さん。

守谷さんと石井さんに共通しているのは、滝乃川学園ではじめて福祉に触れたこと。知識や経験がなくても、「興味を持って」「面白そうだと思って」という動機から滝乃川学園で働きはじめた人が多いことに、最初は驚くかもしれません。

「友達に福祉の仕事をしていると話すと“大変そうだね”って言われることが多いんですが、私はそういうイメージをなくしたい。どんな仕事でも、それぞれの大変さがあります。ここには人と人との関係をゆっくり育んでいくという大変さはあるけれど、ここの人たちと滝乃川学園が大好きで、この仕事を長く続ける人が多いんです」

かつては新人だったけれど、今や子育てをしながら働くお母さんの木島さんはそう話します。

“誰かの人生に寄り添う”ことは、その人から自分も影響を受けるということ。
ずっと昔から湧水に育まれてきた自然の中で、ゆっくり対話を積み重ねながら、人と人の間にある関係性を見つめてみませんか。

法人情報

法人名
社会福祉法人滝乃川学園
HP
https://www.takinogawagakuen.jp/
問い合わせ
042-573-3950

東京都国立市矢川3-16-1

加藤 優 加藤 優

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