色と光がまざりあう

色と光がまざりあう

国立駅周辺のまちは、学校、図書館、美術館などの教育や文化の施設が集まる「文教地区」に指定されています。

実際に歩いていると、ふと小さなギャラリーを見つけたり、メインストリート・大学通りの並木の間に彫刻作品が並んでいたりと、老若男女問わずあたりまえのように、アートに触れる機会が多いまちです。

そんな国立駅から徒歩2分の場所にたたずむ『コート・ギャラリー国立』。そこには、親子3代にわたる、文化・芸術への想いが続いていました。

もくじ

美術館のようなギャラリー

コート・ギャラリー国立の外観は、まるで美術館のよう。けれども実は出入り自由のギャラリーとして、小さな子どもから大人まで、全ての人に開かれています。

創始者である故・岩﨑茂雄さんがこの場所を作ったのは、1994(平成6)年。ヨーロッパに憧れ、世界的にも有名な美術館を巡るなかで美術への造詣を深めた岩﨑さんは、コート・ギャラリー国立を立ち上げるまでに、3つものギャラリーを立ち上げてきました。

最初のギャラリーは、国立駅の隣の立川駅前にあった元高島屋のさらに前身、1961年に閉店した『銀座デパート』の一階にありました。『立川ビル画廊』と名付けられた画廊は若手美術家・芸術家たちの発表の場として人気があり、一年先の予約も埋まるほどでしたが、デパートの閉店に伴い移転。その後『四季』という画廊を作りましたが、その場所には多摩モノレールが開通することが決定していました。

お洒落な紳士でもあった岩﨑さんは、国立駅前の商店街・ブランコ通りで若者をターゲットにしたアイビー・ルックの洋服店も開いていたそうです。その場所は1981(昭和56)年に、今も続いているギャラリー『アートスペース88』になりました。

8畳一間の二階建てであることから“88(ハチハチ)”と呼ばれているこのギャラリーは、古民家のようなぬくもりと、作品を引き立てる白い壁が特徴的。昔の日本家屋らしく、階段は少し急ですが、子どもから大人まで気軽に立ち寄って作品を眺めることができます。

「コート・ギャラリー国立は、都市開発のために画廊を撤退し続けてきた父にとって最後の砦(とりで)でした。昔の画廊といえば、地下にあったり、窓がなかったりと、暗い空間の中で作品にスポットライトを当てる見せ方が主流でしたが、ここは天井が高くて自然光に溢れています。きっと、父が大好きだったヨーロッパの美術館をイメージしたんでしょうね」と、2代目の和井田慶子(わいだ・けいこ)さん。

コート・ギャラリー国立には広い中庭があり、大きな窓から差し込む自然光が、コンクリート打ちっ放しの壁や作品を浮かび上がらせています。明るく開放的な空間で作品を鑑賞する光景は、今でこそ主流ですが、コート・ギャラリー国立はそれを先駆けていたのかもしれません。

「父は具象画が好きでしたが、私は抽象画も大好きで、ギャラリーの方向性をめぐってよく親子喧嘩をしました」と、和井田さんは当時を振り返ります。

和井田さんにとってアートは幼い頃から身近にあるもので、それは娘の上原恭子(うえはら・きょうこ)さんにも受け継がれていきました。

「絵が好き」から繋がった仲間たち

2020年にギャラリーの手伝いを始めるまで、テーマパークや舞台などで美術塗装の仕事をしていた上原さん。現在もフリーランスとして、お店の家具や建具をアンティーク調に、白壁をコンクリート調に塗り替えるなどの塗装の仕事を請け負ったりもしています。

「小さい頃から、家のインテリアの一部にアートが飾られているのが当たり前という環境で育ちました。私も幼稚園の頃から国立の絵画教室に通い始めて、すごく良い先生だったので『絵を描くことが好き』だと自然に思うようになって。祖父は言葉数は少なかったけれど、中学生の頃から海外の有名な美術館に連れて行ってくれて、色んなものを見せてくれました。武蔵野美術大学に入学した時は、すごく喜んでくれましたね」

コート・ギャラリー国立とアートスペース88では、美大生や芸大生による展示企画も積極的に開催しています。そうした「学生枠」は立ち上げ当初からあったそうで、「若い人に展示する機会を広げ、多くの人たちに今の芸術、美術に触れてほしい」という、岩﨑さんの想いが受け継がれ、今も多くの美大生が展示や鑑賞に訪れます。

「絵を描くことは好きだけど、私は画家として食べていくことはできないだろうと思っていました。そんな時に美術塗装の仕事に出会ったんです。常に色に触れることができるし、自分の作品づくりとはまた違って、依頼に応えて絵を描けることが楽しくて」

「色に触れる」時の上原さんは、お母さんの和井田さんから見てもすごいエネルギーがあるそうで、「大きな塗装の現場で、寝食を忘れるほどずっとのめり込んでいて、この子はこんなに色と触れ合う事が好きなんだと改めて思いました。ギャラリーの仕事は作家さんとコミュニケーションをとるほかは地味な事務作業が多いから、少し落ち着くまではここに引き止められないなと」そう、密かに思っていたそうです。

上原さんは塗装の仕事を20年以上続ける中で、同じ「絵やものをつくりあげることが好き」な仲間と出会い、アートワークショップユニット『コネルテ』を5人で立ち上げます。子どもから大人まで楽しめるワークショップの企画や、幼稚園や保育園に美術講師として出張することで、絵を描くことの楽しさを広げています。

そして結婚、出産を経て、和井田さんが思っていた「少し落ち着く」頃に、上原さんはギャラリーの手伝いを始めました。岩﨑さん、和井田さんの時代からつながりのある作家さんに、『コネルテ』や未来ある学生たちも加わり、ギャラリーはさらに盛り上がりつつあります。

具象画が好きだった岩﨑さん、抽象画やいろんな作品に興味を広げた和井田さん、自身も描くことが好きで、子どもから大人まで「絵の楽しさ」を広げている上原さん。

コート・ギャラリー国立は、立ち上げ当初の想いはそのままに、3代にわたってより広く、多くの人へ、アートの魅力を伝えていきます。

アートから広がる暮らしと仕事

「“絵が上手い”って何だろう? 目の前にあるものをそのまま描き起こすことができたら上手いことになるのかな? そんな風に難しく考えなくても、絵の具を混ぜて生まれる色の世界は面白いし、画用紙と筆とパレットがなくても、大きい空間を好きなように使って絵が描ける機会があってもいい。私も何も考えずに描いているうちに、絵が好きになっていたんです」と、上原さん。

「インテリアに花を取り入れるように、好きな作品を身近に取り入れる人が増えて欲しいです。私は子どもの頃からそれが日常で、今も暮らしの中で好きな作品が目に入るだけでワクワクするし、気分が変わったらまた新しいワクワクする作品に替えてみる、そんな生活をもっとたくさんの人に体験してみてほしいです」と、和井田さん。

アートから仕事や暮らしが広がっている2人が営むギャラリー。国立駅前の子どもから大人まで自由に過ごせるこの場所に立ち寄って、自分の中に広がる“何か”を見つけてみませんか?

ギャラリー情報

ギャラリー名
コート・ギャラリー国立 / アートスペース88
HP
http://www.courtgallery-k.com/
問い合わせ
http://www.courtgallery-k.com/contact.html

東京都国立市中1-8-32

加藤 優 加藤 優

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