自分だけの書斎、もしくは行きつけのカフェ、あるいは気心知れた昔からの友達の部屋にいるような。
ここは今の自分のライフスタイルに合わせて変わる、不思議な場所です。
インテリアを選ぶ基準は、この空間に馴染むこと。そして、今の気分に馴染むこと。
新品よりもアンティークを選ぶ理由は、さまざまな時間と空間を経たモノは、「世界で一つだけのモノ」に育っているからです。
前に使われていた空間で過ごした使い手との日々のなかで、味わい深く育ったアンティークの家具は、この部屋で過ごしている人たちのこともやわらかく受け止めてくれるのです。
「この空間には、コレを足そう」「コレは、この空間から引いたほうがいいかもしれない」
そうやって選ばれたモノは、呼吸するようにその空間に馴染みます。
いいモノとの出会いを求めて、国立のまちを散歩することが多いです。「中に入れてあげよう」という呼びかけの意味を持つ古道具店『LET ‘EM IN(レットエムイン)』や、うつわと雑貨のセレクトショップ『黄色い鳥器店』には、ここにあるモノや空間にもしっくり馴染むモノが多いと思います。
ここを訪れる人は、国立に暮らしている人だけではなく、遠方から来られている人もいます。
もともとは、国立に暮らしていた人が多いかもしれません。遠方に引っ越してもわざわざ国立まで来てくれるのは、私やうちのスタッフのことを好きでいてくれて、数ヶ月に一度、友達に会いに来るような感覚で来てくれるから……だとしたら、嬉しいですね。
ここを好きになってくれる人との出会いが、モノとの出会いに繋がることもあります。
誰でも入れる雑貨屋さんではないのですが、ここにはアクセサリーも少し置いています。フランスに在住しているバイヤーさんから仕入れはじめたもので、海外で買い付けられた一点物のデットストックの中から、「好き」だと感じたモノを選んでいます。
それらはこの空間を構成する小さなモノの一つという感覚なので、たまに売れていった時には一人ですごく寂しい気分になります。お嫁に行った先でも、大切に使ってもらえていたら嬉しいです。
自分たちが飽きてしまわないように、必要なものよりも、好きなものばかりを選んできました。そうしていると、それを「好き」だと言ってくれる人ばかりが、ここに来てくれるようになりました。
でも実際は、ここが「好き」だから来てくれていると思っていた人たちは、この空間や私たちのことを「必要」としてくれていたんです。2020年、2021年は、そのことに気づけた年でもありました。
それを知った時は、震えるほど感動しました。
私たちは髪を切る仕事をしています。
コロナ禍で、不要不急の外出ができなくなった時。生活必需品なら緊急事態宣言下でも必要とされ続けますが、私たちは不要不急の存在だからと、政府の方針に則って休業することにしました。
でも、休業期間中でもここを「必要」だと言ってくれる人の声が届いて、再開したら、以前とほとんど変わらない顔ぶれのお客さんが待ってくれていたんです。
髪を切る仕事をしている私ですが、人に髪を切ってもらうのは苦手です。だからこそ、自分が切ってもらう立場になった時の目線に立って、居心地よく過ごしてもらうにはどうしたらいいのか。そのためには、まず自分たちが自然体でいることが大事なんだと思っています。
なので、ここでも、家でも、変わらず同じ姿のままでいます。いつも気分は軽やかで、ここに来られる皆さんも、お店というより友達の家のように思ってくれているといいなと思います。
ずっと大切にし続けたいことは、「正確な技術」「確かな知識」「豊かな人間性」の3本柱。
デッドストックのアンティークと同じように、髪はその人固有のもの。空間と同じで、その人に合う形があって、その人らしく馴染んでいくものです。
「ここに来たら、任せてください」と胸を張って言い続ける、そのためにも、正確な技術と確かな知識は欠かせません。
今、私を含めて4人のスタッフには、みんな小さな子どもがいます。そういうライフステージにいることもあり、働き方はそれぞれの裁量に任せて、休みの取り方も自由です。
「自分にお客さんがついているから、自分がいる日に予約が入る」高い技術を持つ美容師だからこそ、お客さんとの信頼関係を大切にしながら、そういう働き方ができています。
いつか、誰かの子どものうち一人がこの場所を継ぎたいと言ってくれる、そんな未来があっても面白いですね。
技術や知識は、プロに教わり、勉強を欠かさずにいれば身につけていけます。でも、3本柱の一つ「豊かな人間性」は、誰かをそっくり真似しても決して身に付けることはできない、唯一無二のもの。
国立に来てよかったことは、そんな二つとない好きな人やモノたちに出会えたこと。私たちは本当に、縁に恵まれていると思います。
東京都国立市中1-1-1 ハイム国立壱番館1F