今年も残すところ、あとわずか。コロナに始まり、コロナが終わらない……なんとも残念な1年となってしまいました。本来であれば、11月には国立の秋の一大イベント『天下市』や、12月には旧車が一同に集まる『谷保(やほ)天満宮旧車祭』など、楽しいイベントが開かれる予定でした。来年は、これらのイベントを普通に楽しめるようになっていることを願ってやみません。そのためにも、今は自分たちでできることにしっかりと取り組んでいくことが大切ですね。医療従事者の皆さん、本当にありがとうございます。
私はレトロな街並みや雑貨、車、純喫茶……など、古いものに心惹かれる嗜好なので、この『谷保天満宮旧車祭』はひそかに楽しみしていたイベントでした。過去の写真などを検索すると、谷保天満宮の境内にずらりと並んだクラッシックカーは、実に壮観。『日野ルノー』に『シトロエン』『セリカ1600GT』……ワクワクが止まりません。
そんな車が並ぶはずだった『谷保天満宮』は、東日本における天満宮としては最も古い歴史を持ち、湯島天神、亀戸天神と合わせて“関東三大天神”と呼ばれています。学問の神様、一刀彫 菅原道真を祀る社(やしろ)として有名ですが、実は“交通安全発祥の地”でもあるそうです。
明治41年8月1日に“自動車の宮様”と称された有栖川宮威仁親王殿下ご先導による“遠乗会”と称された国内初のドライブツアーが谷保天満宮を目的地として開催されました。宮様御一行は天満宮ご参拝の後、整備が不十分だった道路でも故障や事故もなく無事に戻られたことから、谷保天満宮は“交通安全発祥の地”と呼ばれるようになりました。こうした背景があって、旧車祭が開かれているんですね。
『谷保天満宮』の中には、“神牛”も祀られています。“牛と天神様の関係”については、石碑にこんなことが書かれています。
「仁明天皇の承知12年(845)6月25日に菅公(菅原道真のこと)が生誕(※丑年・丑の日・丑の刻生まれで、日頃から牛をよく可愛がっていたという説あり。亡くなったのも生誕時と同様、丑並びだったらしいです)。また、公薨去(※こうきょ/皇太子妃や親王がお亡くなりになるという意味)の際、筑紫の国 三笠郡四堂に墓を築き葬ろうと轜車(喪の車)を引き出したが、途中牛車が動かなくなったので、その場所に埋葬したなど、菅公と牛に関する神秘的な伝説が数多く残っている。座牛はこの悲しみに動かなくなった牛を表現したものである」(谷保天満宮『座牛』石碑より)。
ちなみに谷保には『千丑(ちうし)』という地名もあるんです。珍しい地名なので『千丑茶屋』という農家カフェでお話を伺ってみたところ、以前はこのあたりで牛を飼っている農家さんが多かったからなのだとか。谷保と牛の関係って、とっても深いんですね。
そして来年の干支は、『丑(うし)』。丑年は「我慢(耐える)」「これから発展する前触れ(芽が出る)」という年になると言われているそうです。コロナの収束までもう少し、我慢の年になるのでしょうか……。
谷保とは、国立駅から大学通りをひたすらまっすぐ南下した谷保駅周辺のエリアのこと。国立駅周辺に比べるとのんびりとした雰囲気で、大きな団地や昔ながらの商店街が残る、そこはかとなく“昭和レトロ感”が漂う街並みです。
谷保駅から少し歩いたところに、50mほどの小さな3つのアーケードから構成される『国立ダイヤ街商店街』があります。レトロ好きにはツボすぎるエリア。子どものころに住んでいたのが商店街だったせいか、こういう雰囲気に懐かしさがこみあげてきます。お肉屋さんに魚屋さん、くすり屋さん、靴屋さん。そういえば、子どもの頃って、お店のことを「〇〇屋さん」って呼んでいたな……なんて思い出しました。いいな、この場所。なんだか、あったかい気持ちになります。
そんな『国立ダイヤ街商店街』の一角にある『小鳥書房』さんが、とても素敵でした。“まちの本屋さん”でありながら、小さな出版社としても活動されています。「この人にこんな本を届けたい」「著者の思いを100年先まで残したい」という想いに突き動かされ、作るべきと感じた本の出版を行っている……という独自の編集スタイルも魅力的です。先日まで『小鳥書房文学賞』の作品募集も行われていました。どんな作品が選ばれるのか、とても興味深いです。ここから、未来の作家が生まれるかもしれません。
『小鳥書房』さんで楽しいおしゃべりに夢中になっていたら、すっかり日が暮れてしまいました。この時期は日の入りも早いので、目の前にある『汽車ぽっぽ公園』(正式名称は、谷保第一公園)』も夕日に包まれて、郷愁感が漂っています。お母さんたちと一緒に帰っていく子どもたちは、まだ遊び足りなさそう。こういう光景、ホッとしますね。
この日は子どものころ、家の近くにあった店によく似た“魚屋さん”で、本日のサービス品だったサワラと生ひじきを買って帰りました。お店のお母さんは、手際よく魚を包みながら、「こうやって食べると美味しいわよ」とお客さんひとりひとりに愛想よく話しかけています。ソーシャルディスタンスやリモートワークという無機質なカタカナ用語が飛び交うご時世に逆行した昔ながらの接客スタイルに、ほっこり癒される思いでした。谷保エリアの魅力は、まだまだありそう。また別の機会にご紹介させていただきます。
(書き手:小倉一恵/国立暮らし1年目)
外から見たときと、内側から見たときのイメージは少し違います。そんな『国立暮らし1年目』だからこそ見えてくるものを綴るコラムです。