暮らしのものと奥行き

暮らしのものと奥行き

国立駅南口から伸びる通りといえば、メインストリート“大学通り”。

一方で、北口からは“222号”という通りが伸びていることを知っていますか?

222号は国立駅からまっすぐ北へ向かい、途中で右に曲がって、ゆったりとした坂道に変わります。その坂を登っていくと、パン屋さんやカフェ、地場野菜のお店、日用品や焼き菓子を売る雑貨屋さんなど、一味違ったお店が軒を連ねる『22番街商店街』にたどり着きます。

坂を登らなければわからない、けれども実は国立駅から徒歩10分足らずの場所にある……そんな道沿いの商店街に、『OCUYUKI』の扉があります。

もくじ

ものと暮らしがつながる場所

奥行きのある店内に並ぶのは、木や陶器のうつわやタオル、洋服や靴下、海苔やりんごジュースなどの様々な日用品。ここは、うつわ専門店とも雑貨のセレクトショップとも違う、「暮らしのお店」です。

「ものや、それを作る人が面白いなと思ったものを置いています」と、店主の吉川友紀子(よしかわ・ゆきこ)さん。

OCUYUKIという店名には、「暮らしの奥行き」や「ものの奥行き」という意味が込められています。吉川さんの名前“YUKICO”のアナグラムでもあるそう。

店内にはじっくり見たくなるものが多く、中量生産・手工業品と呼ばれるもの、時期限定のものも。手に取って眺めていると、吉川さんやOCUYUKIのスタッフたちが、ものや作り手の情報をさりげなく教えてくれます。

それは、素材や使い方、作り手の名前やものが生まれた場所のことだけでなく、作り手と親交がなければ知りえない出来事や、作り手の人柄や趣味のことまで。これまで顔も知らなかった作り手に、だんだんと親近感が湧いてきます。

なぜなら、ここにあるものは全て、吉川さんがよく知る作り手たちのものだから。OCUYUKIは、私たちの暮らしに奥行きをもたらすものや情報が見つかる場所です。

デザイナーから、ショップ店員まで

吉川さんの本業はデザインディレクション。クライアントの一人が、OCUYUKIでも取り扱っている『植木農家の夏みかんママレード』の天神山須藤園さんです。

天神山須藤園さんとは、2018年に小金井公園で開催されたファーマーズフェスタのグラフィックを手がけた際に知り合ったそう。三鷹でオリーブなどの植木の栽培を続けて350年、新事業としてはじめるオリーブオイル工場を、地域に開かれた場としてデザインしたいという依頼を受けています。

「その人のビジョンを実現させるまでの道筋を整えたり、より良い方向を模索したりするデザインディレクションは、お手伝いというより“お節介を焼く”仕事だと思います」

吉川さんは、武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科を卒業後、大手住宅メーカーに就職。住宅設計や展示場の空間づくりなどを手がけますが、「もっとデザインの仕事がしたい」と考え、大学時代のつてでデザイン事務所に転職。「当時は仕事のできないアシスタントでした」と吉川さんは話します。

「興味を持ったのが、デザイナーが『自分で作って、自分で売る』セルフプロダクトでした。デザイン事務所のホームページにはそのためのプラットフォームがありましたが、卸し先は限られていて、ただウェブサイトに商品が載っているだけでは売れない。商品は素晴らしいのにもったいないと思いました。ものや作り手のことは、どうやったら伝わるんだろう、売れるんだろう、と考えるようになりました」

その後、2008年のリーマンショックでデザインのプロジェクトが停止したことを機に、代官山のインテリアショップのスタッフ募集を見つけ、かねてから興味のあった「伝える」側に。アルバイトからスタートして社員になりました。

空間、デザイン、インテリアショップ……全く畑違いの場所を行き来しているように見える吉川さん。ですが、

「人の暮らしに寄り添うことを仕事にしたい。その軸はずっと共通しています」

そう話します。

その後、ショップは店舗拡大し、吉川さんは副店長としてディスプレイやスタッフの育成なども担当。働きながら店舗運営のノウハウをひと通り身につけて3〜4年がたった頃、「誰かに売るのなら、自分が心からいいと思ったものを売っていきたい」と思うようになりました。

そんな想いを話していたら、新卒の頃からつながりのあったデザイナーたちが手がける『ててて協働組合』の運営メンバーとして誘われます。

「“作り手、使い手、伝え手の3つの手をつなぐ”という意味の『ててて協働組合』では、日本の中小規模のものづくりを紹介していて、共感する部分がたくさんありました。私がメンバーになったのは、2012年に販売イベント『ててて商店街』を立ち上げたタイミングです。その時から、『OCUYUKI』を立ち上げた今に至るまで、ショップ店員として身に付けた販売や接客、卸しや発送、納品や請求などの一連のノウハウはずっと仕事に活きています」

好きになったものや人のことを伝えたい。

吉川さんの伝え手としての想いやスキルは、『ててて協働組合』を介して日本全国の作り手へとつながり、そして吉川さんが家族と一緒に暮らすまちで立ち上げたお店『OCUYUKI』へと集約されていきました。

“伝え手”というスキル

私たち使い手が、作り手のストーリーを知ることができるのは、間にお店や伝え手がいるから。

では、使い手と作り手が直接つながれば、ものの良さがよりわかるのかというと、そこには少なからぬ問題があるようです。

「作り手が売り手も兼ねると、売り場に立っている時間や、地方の人なら東京への移動時間も含めて、ものを作れない時間が発生します。するとかえって売上が下がったり、すごくいい作り手でも、一般のお客さんにアピールするのが上手かというと、ものづくりのスキルと伝えるスキルは全く別物だったりもします。だからこそ、使い手のニーズと作り手の良さの両方を知っている、私たち伝え手に販売を依頼されることは多いです」

作り手には、理解者になれる伝え手が必要不可欠なのかもしれません。吉川さんが作り手のことを話すとき、そこにはあたたかい信頼関係があることが伝わってきます。

一方で、「作り手のことが好きという気持ちと、良さを伝えて買ってもらうためのスキルは違います」と吉川さん。

それは、相手の心を動かすスキル。OCUYUKIで吉川さんやスタッフのみなさんと話をしていると、そこには作り手へのリスペクト以上の“何か”があることがわかります。その“何か”は、ものと自分との間に自然と入ってきて、買っても買わなくても消えることはありません。

必要だから・安いからとレジに直行するようなインスタントな売買ではなく、手にとってじっくり眺めているうちに、暮らしのそばに置き続けたいと思ってしまう“何か”。

その“何か”に触れてみたい、そのスキルを身に付けたい……そんな人は、まずはOCUYUKIの扉を開いてみませんか?

店舗情報

店名
OCUYUKI
HP
https://ocuyuki.jp/
問い合わせ
090-4060-0932

東京都国分寺市日吉町2-33-20 シャルムビル102

加藤 優 加藤 優

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