やぼな夜 第10話 ー玉ちゃんの家編ー [コラム]

やぼな夜 第10話 ー玉ちゃんの家編ー [コラム]

ほんの少し秋らしくなってきた9月頭、『やぼな夜』は10回目を迎えました。アニバーサリー夜を過ごすべく、取材チームは谷保駅に終結し、行く場所を決めずにゆっくり北へ歩きはじめました。

第3話で伺った『千花』さんの前を過ぎ、団地通りへ出ると、右手には第4話で伺った『酒処たちばな』さんの提灯が。どちらも素敵なお店だったね〜と話しながら左へ進むと、そこには『かんこくおうちごはん 玉ちゃんの家』と書かれたほっこりする看板がありました。

玉ちゃんのキンパやチヂミは、国立のいくつかのお店でよく見かける、おなじみの味。取材チームみんな「今夜は玉ちゃんの家だ!」と直観し、お店の扉を開けたのでした。

玉ちゃんの韓国料理

お店に入ると、カゴに積まれたたくさんのかぼちゃ、ボールいっぱいに入った白菜が目に飛び込んできました。店内はあたたかみのある木調の良い雰囲気です。入ってすぐの丸テーブルに座りました。テーブルには「満」の文字があり(作家さんのマークですかね)、触り心地がすこぶる良い! 木が柔らかく、撫でると年輪のボコボコを感じられます。

店主の玉ちゃんさん(以降、玉ちゃん)がお茶とメニューを持ってきてくださり、「今日はかぼちゃがあるからジョンできるよ〜、蒸した餃子のマンドゥも美味しいよ〜、サムゲタンもあるよ〜」とおすすめしてくださいました。

「ジョンって何ですか?」と聞いてみると、天ぷらのようなフライとのこと。美味しそう!

生ビールのおつまみセット、やかん入りマッコリ、おすすめしてくださったかぼちゃのジョン、マンドゥ、そしてご飯ものも食べたいねということで石焼ビビンバをひとまず注文しました。

まあるいマンドゥ、ふくよかなマッコリ

飲み物が運ばれてきました。
おつまみセットも、やかんマッコリも、マッコリカップもなんとも可愛いお姿。

乾杯!!!

おつまみセットの内容は、みょうがのナムル、キムチ、じゃこの炒め物。どれも美味しい!

私はみょうがのナムルを初めて食べました。口の中がさっぱりします。暑い日が続いて体も疲れていたのか、「私、今日こういう韓国料理が食べたかったんだ!」とこの時改めて思いました。

素敵な蒸し器に入ったマンドゥも運ばれてきました。蓋を開けると、ぷりっぷりツヤッツヤの桃のような、おしりのような形をした蒸し餃子が。か、可愛い!

美味しそうな上に愛らしいのです。いざ実食。ほんのり魚介の風味を感じる、このタレがまた美味しい! ぷりぷりの餃子は噛むと肉汁が出てきます。しらたき(糸こんにゃく?)も入っていて具沢山。とてもおいしかったです。

玉ちゃんも大好きな谷保野菜

国立人の編集の優さんが玉ちゃんとお知り合いだったことから、『やぼな夜』の話になりました。ひとりでは入りづらいお店に取材チームみんなで入り、お酒と料理をいただきながら谷保のことを再発見することを一年以上続けてきたことを伝えると、玉ちゃんから「今までどんなところに行ったの?」という質問が。

第1夜から伺ったお店を振り返りながらお話しすると、玉ちゃんの顔が広いということもあると思うのですが、これまでに伺ったお店の方と玉ちゃんのつながりや、谷保のお店同士の意外なつながりをたくさん知ることができました!

今夜のジョンに使われているかぼちゃは、ロロンカボチャという品種で、谷保で育った谷保野菜だそうです。玉ちゃんの家で使用している野菜は、ほとんどが谷保野菜とのこと!

本格的な冬が来る前に、春先から1年分のキムチをまとめて漬けるキムチ作り『キムジャン』のための白菜も、韓国の白菜の種を谷保の農家さんにお願いして育ててもらっているそうです。また、これからの季節が旬である梨も韓国料理には欠かせない食材なのだとか。あの人の野菜や、あの人の梨は本当に美味しいんだよ〜と話す玉ちゃんのお顔はキラキラしていて、心の底から谷保野菜が大好きなことが伝わってきました。

やさしい韓国の母の味

日本での暮らしも長いという玉ちゃんに、「故郷のチェジュ島へ帰りたくなることはありますか?」と尋ねてみました。

すると、「食べたいものを作って食べることができているから満足していて、あまり帰りたくならないんだよ〜」とのこと。

韓国の家族とは顔を見ながら通話もできるし、飛行機で2〜3時間の距離なので、日本にもよく遊びに来られるそう。なるほど、納得です。私の故郷の青森に帰りたくなるのは、やっぱりそこでしか食べられないものがあるからということも大きいのですが、玉ちゃんは谷保の畑の作物が美味しいことだけでなく、谷保には韓国でよく食べられている野草が生えていることに気づいたのだとか。野草はスーパーでは売られていないものも多いので、見つけた時はとても嬉しかったし、韓国の野菜も日本の野菜もあまり違いがないので不便さは特に感じないそうです。

朗らかに谷保のことを語る玉ちゃんとの話は弾みます。玉ちゃんが日本に来た時のこと、谷保で暮らすようになったきっかけ、今のお店ができた経緯などなど……。

「東京タワーがすごく好きなの」と話す玉ちゃん。日本に来たばかりの頃に行った思い出の場所なのだそう。

「東京タワーを見るとなぜかホッとする。ここは日本なんだ、東京なんだと思うし、私は韓国人なんだと感じる。谷保にいると居心地が良くて韓国にいるような気がする。友達の90パーセントが日本人だから、自分が何人なのかわからなくなることもあるんだよ」

そう話す玉ちゃんの優しいお顔が忘れられないです。とても印象深い瞬間でした。

国立を初めて訪れたのは4月頃で、国立駅を出てすぐの桜並木を見て「ここで暮らそう」と思ったのだそうです。

テーブルに運んでくれた石焼きビビンバをかき混ぜてもらいながら、お話は続きます。

イベントでお弁当を出したり、谷保の甲州街道近くにある『やぼろじ』でもともとお店をしていたけれど、コロナウイルス感染症の影響で営業を断念。それでも、玉ちゃんの料理を待ち望む方々が後を立たず、ずっと店舗を探していた玉ちゃんに今の場所を紹介してくださった方がいたのだとか。

縁が縁を呼ぶ。玉ちゃんのまわりを取り巻く人たちの柔らかな連鎖を感じられて、こちらまで嬉しくなります。

「谷保ってどんなところですか?」

いつもの質問を玉ちゃんに投げかけると、

「ふしぎなところ。東京だけど東京っぽくなくて田舎っぽい。畑もある。便利さもあるし田舎っぽさもあってほどよい環境だね〜」とのお返事。

食材が余った時は、隣の焼き鳥さんにもっていくと焼き鳥と刺身が戻ってきたりするのだそう。今も続く物々交換の文化、繋がり。

上京した頃、地方出身の私にとって東京は、繋がりをつくるのが難しいというイメージがありました。それから15年東京で暮らし、さまざまな方と出会い、お話しする中で、地方とは異なる繋がりの多様なあり方を目の当たりにし、世の中捨てたもんじゃないな、と感じています。

玉ちゃんがお店の前で育てている植物を見せてくれました。けけず(ローリエ)の葉っぱ、さんしょう、さつまいもです。さつまいもは実ではなく、茎を食べたいから育てているのだとか。さつまいもの茎をエゴマで炒めたもの、梨のキムチ、韓国海苔、あつあつのご飯を出してくれました!

さつまいもの茎は、エゴマの油なのかまろやかでもあり、お米に合いすぎます。最高でした。梨のキムチも、梨がみずみずしくてとても甘く、めちゃくちゃ美味しかったです。

玉ちゃんは自らを「米中毒」と言うほど、日本のお米が好きだそうです。韓国のスープと日本のお米はよく合うし、料理に欠かせないしょうゆやみりん、米麹、米粉(キムチに入れる)など、全て大切なことだよね、と米談義に花が咲きました。

「私が食べたいものを作ってるんだよ〜。レシピがある料理じゃないから、いつもちょっとずつ違う母の味みたいなもの。母の味は飽きないよね」と笑顔で話す玉ちゃん。

玉ちゃんがつくる料理がなんとも愛らしいのは、玉ちゃん自身が母国の料理を愛し、時間をかけて作っているからなのだと感じました。そして谷保、国立のこともすごく大切に思っていることも、美味しさの秘密なのではないでしょうか。
愛らしい料理をつくる玉ちゃんの手もまた、ふかふかですごく素敵な手でした。

母の味とお話に満たされた10回目のアニバーサリーな夜、ごちそうさまでした!

私も久しぶりに東京タワーを見に行ってみようと思います。

『やぼな夜』 第11夜へつづく。

(取材 木村玲奈 / 編集 国立人編集部)

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「やぼな夜」とは

「やぼってどんな場所?」を探るべく、谷保の夜へ繰り出します。

木村 玲奈 木村 玲奈

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