10年に一度の大寒波の夜。谷保駅を降りて、『やぼな夜 第1話』で訪れた『旅路』を通り過ぎ、あたたかな灯りがともる『ニコノマニマニ雑貨店』に吸い込まれるように寄り道してから、谷保を代表する商店街の一つ『ダイヤ街商店街』へと向かいました。
ニコノマニマニのお店の方に谷保情報を尋ねると、「新参者だからあまり詳しくなくて」とおっしゃりつつも、知らなかったお店情報がどんどん出てくる! 4話目以降で必ず伺いたいお店ができました。こんな風に谷保で出会った谷保の先輩(と勝手に呼ばせていただきます)と、先輩おすすめのお店でやぼな夜を過ごすことができたら、それも素敵だなと感じました。
今夜は、ダイヤ街商店街にある『千花』さんへ。ニコノマニマニさんの「牛肉がすごく美味しくて忘れられない!」という言葉に、肉を食べる意思を強く固めて訪問。
「鉄板焼 千花 もんじゃ お好み焼」と書かれたオレンジの暖簾をくぐって中へ入ると、店主さんと奥様らしき方が迎え入れてくれました。掘りごたつのテーブルへ着席。オーダーを取りにきてくださった方(お母さんと呼んでいいよ、と言ってくださったので、以下お母さん)におすすめを聞いて、まずは瓶ビール、キムチ、牛すじ煮込み、マヨホタテ大根サラダを注文。
出汁醤油で食べる豆乳の中にお豆腐が入ったお通し(クリーミーであったまる!)の後、続々とお料理が運ばれてきました。牛すじ煮込みはホロッホロで、口に入れるとすぐ無くなります。美味。
キムチは、お母さんの生まれ故郷である大阪の桃谷から取り寄せているとのこと。マヨホタテ大根サラダは「スープサラダのように食べられる」とお母さんが言っていた通り、シャキシャキの大根が入った、ホタテの旨味がつまった豆乳スープは、まさに飲み干せるサラダでした!
その後、黒板のお肉メニュー (部位) から迷いに迷って、黒毛和牛の牛タンとカイノミを頼みました。カイノミはトモバラと呼ばれる牛の脇腹あたりの部位で、赤身の柔らかさと脂身の旨味を兼ね備えた高級肉だそうです。期待大!
お母さんに店名の『千花』の読み方を質問すると「せんか」だと教えてくれました。
名前の候補が3つあり、姓名判断で観てもらって一番良いと言われたのが「千花(せんか)」だったそうです。でも実は、開店から数年は大変なこともある名前だったそうで、より良い名前があったことを知りますが、「もうとっくに過ぎてしまったから」と笑いながら話すお母さん。ダイヤ街商店街にお店を構えて25年くらいになるそうです。ちょうどもうすぐ改装されて、シックな雰囲気のお店になるのだとか。
ダイヤ街商店街は、国立で最初にできた商店街だそうです。富士見台団地と同時期にできたとのことで、調べてみると私が生まれる前の1965(昭和40)年頃からあったそう。東京海上の社屋が近くにあった時代には、お昼時はものすごい人出があり、商店街に活気があったというお話も。調べてみると1994年くらいまであったようなので、企業と街との関係について興味深く考えながら、料理を美味しく味わいました。
牛タン、カイノミ。なんと綺麗なお肉なんでしょう。
焼ける前からついつい記念撮影してしまいました。「そろそろ焼こっか」と机の鉄板に火をつけてくれるお母さん。もしかして焼いてくれるのか!? 焼いてくれる! やったー!! となった取材班。
まずは牛タンから。ジューっと良い音。良い感じに焼けると、流石のコテ使いで牛タンをひとくち大にカットしてくれます。その様子からも牛タンの柔らかさが伝わってきます。
最後にたくさんのネギを混ぜ焼きして完成。厚切りの牛タンは今までに食べたことはありましたが、ここまで柔らかくて美味しいお肉は初めてでした。
次はカイノミ。塩とワサビで食べるのも美味しいとのことですが、牛タンが塩ダレだったので今日はタレにしてくれました。話しながらもお母さんの手は止まらず、とても良い感じに焼き上ったカイノミは、外はカリッ、中は柔らかく、最高に美味しかったです。すぐさまお肉は腹の中へ。
いつもの質問をしたところ、「最初は下町っぽい雰囲気が良いなと思ってました。魚屋、八百屋など個人店も多くて……」からはじまり、地域で商売を続ける苦労や、ちょっと深いお話もありつつ、「やっぱり、谷保が好き」との答え。昼間だけ開いているお店が多く、夜は閉まってシャッター商店街のようになってしまうのが寂しいとのこと。これから若い人にもどんどん入ってきてほしいそうで、谷保にどんなお店が増えていくのか、とても楽しみにしているそうです。
締めにはフワッフワのお好み焼きも焼いてもらいながら、「幸せ」について話しました。私の場合、年齢を重ねてきたらやっぱり人生(時間)は有限だと、顕著に感じるようになってきました。その中で、漠然と過ごしていた昔と比べたら、「幸せ」というものにより貪欲になった気がします。でも貪欲になるためには、自分にとっての「幸せ」がどういうもの・ことなのか、知る・見つける必要があるよねと……。
すると、お母さんがお好み焼きをひっくり返しました。ものすごく絶妙な良い焼き色がついていて、焼く時間を計っているのか、それとも長年の勘なのか。凄まじいベストタイミングでのひっくり返しでした。見事。そんなお母さんの「幸せ」を感じる時は、「温泉に浸かっている時」だそうです。
自分の「幸せ」は、まだ「これだ!」とはっきりは言えないけれど、時間をかけてぼんやりとは見えてきたように思います。例えば、平日の昼間に散歩している時などに、幸せを感じていることに気がつきます。
お店を出る時、お母さんが外まで見送ってくれました。
故郷と呼ばれる場所とは異なる土地へ移動し、そこで働き暮らしていく中で、どうしても食べたいもの、故郷じゃないと食べられないものや味ってあると思うのです。それでもどんどん時間は過ぎていくし、今暮らしている土地へも慣れ、親しみを覚えていく。そうしているうちに、人も時代も変化していく。「東京で美味しいお好み焼きを食べたかったから、自分でお店を始めたんだよね」というお母さんの言葉が、幸せを自ら掴みにいっているようで、心に残りました。
美味しい料理と、あたたかい時間をありがとうございました。
今日のやぼグッズは、『ニコノマニマニ雑貨店』で出会った大好きな鳥、ペリカンの仲間のハシビロコウのキーホルダー。毎回『やぼな夜』ではお店や人との出会いとともに、モノとの出会いもあるのですが、今回は人生で初めて見たハシビロコウグッズでした。次は何だろう、だんだん楽しみになってきました(笑)
(取材 木村玲奈 / 編集 国立人編集部)
「やぼってどんな場所?」を探るべく、谷保の夜へ繰り出します。