「&カフェ」な場づくり

「&カフェ」な場づくり

「カフェ」という言葉は、もともとはフランス語の「コーヒー」から、人々がコーヒーを飲みながら過ごせる「場所」へと意味が広がったもの。

最近では、人が集うことを「○○カフェ」と呼んだり、店主が得意とする食事やデザートを出していたりと、カフェの意味はそれを営む人の数だけ、豊かに広がっています。

国立のカフェ『chuff(シャフ)』は、外から眺めているだけは決して見えないけれど、中に入ればアートから社会や地域課題、そしてITまで広がっている? いろんな人や、動物もはたらく? そんな、“ひろがる”カフェの紹介です。

もくじ

自分のコンテンツを持つ人へ

機関車の音“シュシュポポ”の英語版オノマトペを意味する『chuff』は、代表の山田光輝さんが営むウェブデザイン事務所と、奥様の朋子さんが営む海外の帆布製バッグを扱う店として、2009年に国立の旭通りでスタートしました。

事務所の一部を店舗として開いたのは、家族一緒に過ごせる時間を増やすため。そうした「事務所兼店舗」は今でこそ主流ですが、当時は少し珍しいものでした。

2015年には、キッチン付きの現在の場所へ移転してカフェもオープン。コーヒーや紅茶は全国にファンが多い国立の『カイルアコーヒー』、府中の『葉々屋(ようようや)』から仕入れたもので、味は本格的なのに、なんと一杯380円。

個人店なのにチェーン店のような気軽さや、ほどよく「放っておいてくれる」雰囲気もあり、読書やおしゃべり、ちょっとした勉強や会議など、思い思いに過ごせます。

カフェをはじめてから、『chuff』にはいろんな人が集まるようになりました。

この場所を使って、作品や取り組みを発信したい人、やりたいことを温めていた人、『chuff』のスタッフやインターンとして参加しながら、自分の展示やイベントをしたい人、などなど。実際にさまざまな企画や展示が生まれていきました。

「場所をまちへ開くと、アートや地域活動、社会課題など、さまざまな分野で活動する人との出会いがあって、そのたびに刺激をもらえます。一方で、それぞれに取り組む人がいる中で、自分はどれも大切だと感じつつも、何か一つを深く追うこともできず、結果的に何もできていないような気がしていました。そんな中で、『chuff』という場所、デザインやIT技術で、何かお手伝いができないかと考えるようになっていきました」

スタッフや学生が主催するイベントや展示には、無料で場所を提供しています。

コロナ前には、20人規模の映画上映会や、「プラスチック問題」を取り上げた展示・トークショー、「こども哲学」がテーマの対話型イベントなども行われました。

「何かのコンテンツや企画を持つ人たちに、この場所を使ってもらうことで応援ができれば」と、山田さんは話します。

『chuff』でできる催しの一つが、壁面のピクチャーレールを使ったギャラリー展示。学生や若手アーティストなどによる、写真・イラスト・絵画・インフォグラフィックスなどの展示が行われてきました。

「カフェの日常空間に、作品を溶け込ませるように展示できるのが『chuff』の特徴です。『さあ、鑑賞するぞ』と肩肘張らずに、コーヒーを飲みながら、ランチをしながら、日常の延長のような場所で展示を眺めることで、他とは違う見方や気づきが得られる気がします」

展示の主催者には週に一度ほど在廊してもらい、お客さんとしてコーヒーを飲んでいた人が作者だった、そんな出会いのきっかけもあるそう。

『chuff』では、新たな企画の作戦会議もはかどりそう。少し奥まった雰囲気もあるので、クローズドなトークイベント、アコースティックな音楽イベントにもぴったりです。

デザインやウェブ制作を本業にする山田さんが、展示のデザインやレイアウトの相談に乗ることもあります。

「長年身につけてきたウェブやアプリの開発技術があるので、何らかのテーマや社会問題に取り組む人にとって『デザインやツールで解決できる』部分があれば、力になりたいと思っています」

「身近で・役立つ」IT技術

『chuff』の事業の柱はウェブデザイン。教育系コンテンツを中心に、オンライン授業のツールやオンライン教材の開発なども行っています。

「今のITやデザインは、どちらかというとその分野の意識が高い人向けに展開されているような気がして、もっとシンプルなもので多くの人が簡単に使えるものが作れないかと思うようになりました。たとえば、学習ドリルとして使えるアプリなどを、出版物などのコンテンツを持つ人たちが簡単に配信できる仕組みを作れば、より多くのお子さんが安価にいろんな教材を利用できるようになると考えています」

通常、IT技術を駆使して一つのツールを開発するには莫大な予算がかかります。大企業なら一千万円単位の開発予算が必要になることも。

一方で、『chuff』は山田さんを中心に技術スタッフが2〜3人いる小さなチーム。「この規模感だからこそ、予算をかけず、既存の仕事の合間に新しいツール開発に挑戦できる自信が出てきた」と山田さんは話します。

その理由の一つが、依頼ベースではなく「自分たちが欲しいツールを、自分たちのペースと技術力で開発している」ことにあります。

ある日、スタッフの親族が事故に遭い、寝たきりになってしまったそうです。「何かITで役に立てることはないか?」とチームで話し合った結果、「自宅で楽しみながらリハビリができるツールを作ろう!」というプロジェクトがゆるやかに立ち上がりました。

仕事の合間に作業を進めて、約半年。カメラ付きPCやタブレットで「モグラ叩き」を楽しみながら、リハビリにもつながるゲームアプリを開発しました。実際に使ってもらいながら修正を重ねて、本格リリースを目指しています。

ITを活かせるものは、日常のいたるところに潜んでいます。

展示をするなら、スマホのカメラ機能を使ってオンライン情報などにアクセスできる「AR」を使えば、一歩踏み込んだ情報提供や、コミュニケーションの幅も広がります。

「ITは便利ですが、ただ取り入れるのではなく『ITを使って何を解決したいのか?』を考えることが重要です。『どこにどのように使うか』のアイデアや工夫がないと、せっかくITを導入しても役に立たないことも多くなります。何かを解決したいのに……というモヤモヤがある人と一緒に考えていける、そんな場所になっていきたいと思っています」

chuffに集うひとびと

『chuff』では、週1〜2日程度カフェで働きながら、IT・ウェブを手伝いながら学び、自分の興味がある企画やイベントの立案をする、そんな働き方も可能です。

「ウェブの仕事は、システム構築、デザイン、コーディング作業、SNSの発信など、多岐に渡ります。経験が必要なことから未経験の方でもできることまで、さまざまな案件があるので、ウェブ制作やデザインへの興味があればはじめやすい仕事です」

スタッフにはデザインが好きな方もいれば、コーディングやプログラミングが得意な方も。それぞれが得意分野に特化していき、1年後には案件を任せてもらえるほどになるそうです。

そんな『chuff』のメンバーを語るときに欠かせないのが、あずきとよもぎ。

『chuff』の店長を務めるあずきとは、10年ほど前の保護犬譲渡会で出会って家族になりました。小さなよもぎは元“迷子犬”で、国立市内の自宅付近で山田さんの足下へ駆け寄ってきたことが出会いのきっかけです。

「ふたりとの縁から、いろいろな活動をされている方とも出会いました。犬も高齢化して20年近く生きる子もいる中で、人も20年間ずっと健康でいられるかどうかは、どうしてもわかりません。人に何かがあった時にも犬たちをケアできる仕組みを作るなど、人と犬との関係がもっと多様になれば、犬たちも安心して暮らせるのではないか、と考えるようになりました」

人が生み出すコンテンツは、全てが小さな疑問やきっかけからはじまり、情熱によって続いていきます。その情熱と出会える場は、人が集まるカフェであり、続いていく手助けになるのが、IT技術なのかもしれません。

店舗情報

店名
cafe & bag chuff
HP
http://www.chuff.co.jp/
問い合わせ
info@chuff.co.jp

東京都国立市東1-16-29 ハーツ国立2F

加藤 優 加藤 優

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