
2025年2月18日、国立にお米屋さんがオープンしました。
店内にあるものは、お米だけではありません。店主が日本各地を巡り、出会った米農家さんのお米と、産地の特産品、そしてごはんのおとも。さらに、カフェやワークショップ、夜には日本酒バーなど、「米とそのまわり」を楽しむ企画が並びます。

『cometen 国立米店』の前を通ると、コーヒーロースターが豆を焙煎している時のような音が聞こえてくることがあります。
これは精米の音。農家さん直送の玄米を裏の貯蔵庫で保管し、精米したてを並べています。

「同じ産地・品種のお米でも、作り手の手のかけ方で味がまったく違うんです」と店主の優(ゆう)さん。
店内ではその違いを感じてもらうため、日替わりの小さな試食を用意しています。お米の味、ましてや違いなどわからない、と話す人も、一口食べて「おいしい!」と驚き、「お米が甘いなんて思ったことなかったけど、甘い!」と感動する人が多いそう。
「コメテンにあるものは“おいしいお米”だと自慢できるものばかりです。でも、実際にみなさんがどんな反応をされるのか、2月にオープンするまでは未知数でした。それが、自分には味なんてわからないと言っていた方ほど、味わって感動されています。作り手が丹精込めたお米には、人の価値観を変えるパワーがあるのかもしれません」

特に小さな子どもの反応が顕著で、目を輝かせて「ごはん、おいしいー!」と言葉に出す子や、普段はふりかけをかけるのに、白いごはんだけでどんどん食べ進めて親御さんを驚かせる子もいます。
店内では試食のほか、おいしいお米を味わってもらうため、おむすびや、お米の産地から届くごはんのお供を添えたごはん・味噌汁セット、西京焼き定食なども。「おいしいごはんと、お味噌汁。こういうのがいいよね」としみじみ味わう人が多いそうです。

日々の暮らしの中で、「ごはんを炊く」のはあたりまえ。
家の近くでお米を買い、鍋や炊飯器で炊いて食べる。足元にあたりまえのようにある土台の営みを、あえて見直す必要などありませんでした。

2024年夏、その年の収穫を目前にして起きた米不足が、「令和の米騒動」と呼ばれるまでに発展。主に都市部で暮らす人々の生活に影響があったほか、改めて「お米の産地」に目を向けるきっかけにもなりました。

そんなさなかで、実店舗のオープンを迎えることになったコメテンですが、2024年産のお米価格が大きく変動していく中で、価格変更を行うことは一度もなかったそうです。
「価格の設定は、産地の作り手の値付けにもとづき、お互いが共存して持続していけるように定めています。片方だけが儲かるのは、バランスが悪くて持続しませんよね。作り手が想いを込めて作るお米も、食べ手がおいしいお米を楽しめるライフスタイルも、両方が価値のあるものとして持続して、はじめて意味があるのではないかと思っています」
コメテンの常連さんには、味だけでなく「この作り手を応援したい」とお米を選ぶ人も多いそうです。

また、コメテンを訪れる人の中には、「炊飯器を持っていない」人も多いそう。そのため、まずは「鍋で炊く方法」を伝えています。もっとおいしく炊きたい人には、軽くて扱いやすい炊飯土鍋や、なんと直火でごはんが炊ける透明なグラスも!

「好きな道具を使って、好きなお米を炊いてみる。例えば、お茶が好きな人が茶葉を揃えたり、コーヒー好きな人が器具を揃えていったりするように、お米も何種類か新鮮なものを冷蔵庫に入る分だけ購入して、その日の気分に合わせて選んでもらえたら」
3合サイズを買って食べ比べたり、量り売りで多めに購入したり、産地のお供をつけてギフトを贈ったり。中には、いろんな種類のお米を使って、パンを焼いてみる人もいるそうです!

コメテンは単なる小売店でなく、“米と米のまわりを伝える活動”の拠点でもあります。
「訪れる人と一緒に、米と米のまわりのことを考えることがよくあります。面白そうなアイデアが生まれたら、それを活動にするんです」

その一つが、オープン間もない頃に開催した『おむすび市』。パンがテーマのマルシェが盛り上がる中、おむすびがないことを残念に思っていた米好きのメンバーで、おむすび、ワークショップ、米粉のお菓子などが集まる市を立ち上げました。

米、麹(こうじ)、郷土料理などをテーマに、ワークショップや料理教室などの持ち込みイベントも随時開催。米にまつわる新しい企画や挑戦も起こっています。
「作り手がチャレンジする新しいお米、昔から地域に根ざした珍しいお米、そして地域の食文化にも『こんなの知らなかった』と驚くものがたくさんあります。コメテンで紹介している縁やアンテナに引っかかったものをはじめ、さらにお米の産地を伝えたり、つないだりして、活動を広げていきたいと思っています」

味噌や醤油、日本酒やどぶろく、パンやお菓子など、実はいろんなものに使われている米だからこそ、自分につながる縁がある。趣味や仕事の幅も広げてくれるかもしれません。
東京・国立で暮らし、『国立人』の編集・ライターとして働いていた優さんが「米屋になりたい」と3年かけて産地を取材し、準備をして立ち上げたコメテン。一度足を運んでみませんか?
東京都国立市西2丁目10−5 藤田ビル 1F