メインストリートを少し外れた所にある『JSスタジオ』のオフィスは、窓から緑豊かな一橋大学の敷地を臨む、気持ちのいい場所にあります。
“ディスプレイデザイン”と聞いたとき、あなたはどんな仕事を思い浮かべますか?
建築の世界でディスプレイ業界といえば、大きく3つあるそうです。
「“住空間”を手がけるのをインテリアデザインとすれば、ディスプレイデザインは“公共空間”を手がける仕事と言えます。店舗やデパートなどの“商業施設”、図書館や美術館などの“文化施設”、催事場や展示会などの“イベント施設”。それぞれに専門知識が必要です」
そう丁寧に説明してくれたのは、『JSスタジオ』代表の坂井田さん。専門は“商業施設”の空間デザインで、なかでも20年近く手がけてきた“食”と“ファッション”は得意分野です。
「インテリアやデザインは、ずっと好きですね。好きなだけでは仕事にはならないけれど、その気持ちはこの業界で長く仕事をしていく原動力になってくれます。商業は常に世の中の動きと繋がっているので、自分も社会の変化を実感できます。やればやるほど奥が深く、面白くなっていく仕事ですよ」
建築、インテリア、設計の仕事にずっと携わっていきたい気持ちをかなえる会社。身につけば一生ものの、“ディスプレイデザイン”の仕事とは?
大学では建築を学び、マネキン製造会社や設計事務所でデパート、駅ビルなどの設計の経験を積み、フリーのディスプレイデザイナーとして独立、1998年に『有限会社JSスタジオ』を立ち上げた坂井田さん。
それからは、大手建築会社と同じ大規模な案件から、思いの詰まった小さな個人店の案件まで、さまざまな仕事を積み重ねてきました。
ディスプレイデザイナーは、構想段階から工事が完了して引き渡すまでの、すべての行程に携わります。
「“こんなお店を持ちたい”というお客様の夢を具体的に構築して、実現させる仕事です。たとえば、どこにお店を出せばいいのか、近隣に競合する店はあるか、どのような客層で、客単価はいくらか、そのような調査をこちらで行うこともあります。お客様にとってお店のオープンはスタートであって、目標はその後何十年も営業を続けていくことですから」
その提案型のスタイルは、まるでコンサルタントのよう。客単価は席数やカウンター、キッチンなどの広さに、客層は“ナチュラル”や“モダン”といったインテリアの方向性に、密接に関わってくるのです。
「お客様の夢と現実を照らし合わせながらデザインを提案し、設計図を作っていきます。それをもとに施工業者に見積りをとり、予算面のすり合わせも行います」
その設計図はとても具体的。写真の3Dパースは、パース制作専門の業者に発注しているそうです。
「社内のスタッフとは連携を随時とりながら、デザインや設計を進めてもらいます。クライアントとのやりとりは基本的には僕が行っていますが、スタッフに打ち合わせに参加してもらうこともあります」
お客様の考えを丁寧に聞いて、図面に起こし、それぞれの専門業者へ施工を発注し、実現させていく。ディスプレイデザイナーは、夢から現実への橋渡し的存在なのです。
「図面は、お客様にとって夢を描いた絵のようなもの。何度も確認してもらって、社内でも微修正をかけていきながら、イメージと現実のズレをなくしていきます」
そうやって思い描いたお店が実際に形になるまでの期間は、小さなお店なら数ヶ月、大きなモールなら数年単位と、案件によってさまざまだそう。
「自分が描いた図面が形になるということに、若い頃は怖さもありました。“イメージと違う仕上がりになっていたらどうしよう”って。けれども、30年近く経験を積んだ今では、ほぼイメージと仕上がりが合致します。それほど経験がものを言う世界なのかもしれませんね」
設計業務に関わる、建築法規、建材や施工の知識、業者とのやりとりなど、“夢を正確に具体化するスキル”は多様な経験を積んでこそ身につきます。
経験豊富で余裕があり、的確な指示をくれる。そんなベテランの坂井田さんのもとで働くスタッフは、「優しくて仕事がしやすい」と話します。それでも、「若い人の発想、センス、吸引力が眩しい」と話す坂井田さん。
「うちで手がける仕事にはさまざまな案件があるので、未経験やブランクがある状態からでも、長く働いていくうちに業界で通用するスキルを身につけていけると思いますよ」
まずは、イメージを図面に起こすところから。そのスキルが身につけば、次はお客様の夢を実現させるスキルへと、経験の幅を広げていくことができます。
「結婚して子どもを産んでも、好きなインテリアや設計の仕事にどこかで携わっていたかったんです」
そう話すのは、JSスタジオで週4日働いている村松さん。大学ではインテリアや建築を学び、卒業後は住宅リフォーム会社で営業や設計の仕事をしていました。
「前職を辞めたのは、二人目を産んだことがきっかけでした。それでも働くことは好きだったので、子どもの中学進学を機に、時間の区切りがしっかりしているスーパーでパートとして社会復帰したんです。やがて、子どもも大学生以上になって手が離れたので『好きなインテリアの仕事をしよう』と思ったとき、ここに出会いました」
建築やインテリアの分野はとにかく幅広く、新築からリフォーム、住宅から店舗や公共施設、テーブルや椅子やカーテン、さらには橋や道路まで。携わろうと思えば、いろいろな分野が選べるのですね。
「私が前職で携わっていたのは住まいの設計。人の導線や、色彩による過ごしやすさの変化などに興味があったので、店舗設計にもすぐに興味が湧きました。ブランクは10年以上ありましたが、専門用語などの予備知識があったのと、みなさんが優しく教えてくださったので、感覚を取り戻しやすかったです」
現在は、『インテリアデザイナー』という肩書きで、ブランドショップからスーパーまであらゆる店舗の図面を描いている村松さん。好きな分野の仕事に携わりながら、家庭や趣味の時間も大切にできる今のワークライフバランスは、とても充実しているそう。
「これからも自分のペースで、ここで長く働いていきたいと思っています。実は、次のステップアップについても考えていて……」
そんな村松さんの話に、坂井田さんはにこやかに頷きます。自分のペースで次のステップへと進む、スタッフの成長を楽しみにしていることが伝わってきました。
「ネットショップに負けない店創り」
JSスタジオのパンフレットに大きく書かれているこの言葉。ネット時代に必要とされる、店舗の役割とは?
「ネット社会になり、人々の購買行動にも大きな変化が起きています。これからの店舗には、インターネットで買い物をする事では得られない、人に足を運んでもらえるような魅力的な店づくりが必要だと感じています」
モノを売る販売業が減る代わりに「教室やマッサージなど、コトを売るサービス業が増えている」と坂井田さん。
「何が買えるのかだけではなく、どんな魅力ある体験ができるのか。これから新しく店を構える方々のためにも、その価値を一緒に作っていきたい」
パンフレットには「魅力ある空間創り」のほか、「サービス」「商品」「人」「生き方」という言葉も並びます。
「さまざまな生活シーンにおいて、人々が心地よくリラックスでき、時に感動を生み、潤いがあり、そしてイキイキと過ごせる空間創り」。その仕事を手がけるディスプレイデザイナーが活躍する領域は、これからも広がっていきそうです。
東京都国立市東1-16-37-302