暮らすほどに好きになる街

暮らすほどに好きになる街

テレワークが日常化し、運動不足を感じ始めていた最近。夏の終わりから週2回ほどですが、朝のウォーキングを始めました。

車の往来が少ない早朝の大学通りは、ウォーキングやランニング、そして愛犬の散歩に出かける人たちでいっぱい。みんな思い思いのスタイルで、一日の始まりを過ごしています。

そもそも運動が苦手で、自ら走ることなど考えたこともなかった私ですが、心地よい風に吹かれながら歩いていると「あの2つ先の信号まで走ってみよう」と思い立ち、本当に走り出している(といっても、早歩きレベル)のがなんとも不思議です。回を重ねるごとに少しずつですが、走れる距離が伸びていることに小さな喜びを感じている今日この頃です。

ほぼ同じ時間に、同じようなルートを歩いていると、見かける顔ぶれに一方的な親近感を覚えます。大きな犬を連れてゆったりと散歩するご夫婦、かわいらしいワンちゃんを2匹連れて歩く女性。いつも同じベンチに腰掛けて談笑している年配のご婦人たち。黙々と走るマラソンランナーのような男性、おしゃれなウェアで颯爽と駆け抜けていくポニーテールの女性など、「今日もあの人、見かけた」と思いながら、すれ違う際に心の中でそっと「おはようございます」とつぶやいています。

ウォーキングの楽しみは、普段なら見過ごしてしまう街の顔に出会えることだと思っています。

大学通りは“定番コース”ですが、私の中での未開の地『東』、境界線がよくわからない『北』、ほぼ国立市のような駅北口の『国分寺エリア』の住宅街を歩いてみると、「こんなところに、こんなお店があったんだ」という発見がたくさんあります。

個性的なお店や気になるカフェなどは外観や看板をこっそり写真に収め、家に帰って調べてみると新たな発見があるのも楽しいものです。

『国分寺エリア』の住宅街と言えば、国立駅から歩いて8分ほどのところにある『カフェおきもと』の存在は欠かせません。

ここは、国分寺崖線の高台にたたずむ古い洋館を改築したカフェ。竹藪の中に佇む洋館でひっそりと暮らしていた高齢の沖本姉妹と親交のあった近所の主婦が、建物を譲り受け、カフェとして再生させたことで話題になったお店です。

まるで映画の世界のようなストーリーとフォトジェニックな佇まいで、各メディアでも取り上げられて話題になりました。私財を投じてまでこの建物を再生・維持していくという覚悟は、並大抵のことではなかったと思われます。次の世代へと歴史を受け継いでいくことの大切さと難しさ。一筋縄ではいかないさまざまな問題が数多く絡んでいるのだと思いますが、価値あるものは後世へと繋いでほしいものだと“古いもの好き”は心から願ってやみません。

国立の好きな場所

夏の終わり頃、1年間活動に参加した『国立本店』の第9期メンバーによる最後のイベント展示『まちの標本 -国立の好きな場所-』展が、旧国立駅舎で行われました。コロナに振り回され、思い切った企画やイベントなどが行えなかった1年でしたが、「9期の活動の締めくくりに……」と有志のメンバーが集まって実現した展示企画です。

国立本店メンバーや、国立にゆかりのある人たちが、それぞれに自分の好きな場所をコメント付きで紹介するという企画だったのですが、「ただ写真を貼り出すのでは面白くない」ということで、なんとそれを“ブックカバー”にして、本に被せて展示することに。国立本店メンバーのデザイナーさんたちが作ってくれたオリジナルのブックカバーは本当に素敵で、「まさにプロの仕事だ」と惚れ惚れしてしまうほど感動的な仕上がりでした。

「ロージナ茶房のある路地」「ママ下湧水公園」「国立第七小前の通り」などなど……、同じ街で暮らしていても、それぞれが選んだ“好きな場所”はさまざまです。「そうそう、ココ、私も好き」「へぇ、こんな場所があるんだ」「このセレクト、シブいね」など、来場された方々の感想に、私自身も大いに納得。このブックカバーの演出に驚かれる方も多く、中身もタイトルに合わせて作られているのかと、パラパラと本をめくる人も。「統一感を出すために同じサイズの本を集めてカバーを掛けて仕上げてあるんですよ」と説明すると、「本当にこういう本が販売されていたら、ぜひ欲しい!」と大反響でした。

新しい暮らしを始めたことで広がった世界

人生をリセットするべく、知り合いもいなかったこの街に引っ越してきてから、あっという間に1年半。このコラムを書かせていただきながら、これまでのことを振り返ってみました。

ライフワークとしてライター業を続けたくて、自らコンタクトを取ったことがご縁となり、活動の幅を広げるきっかけをつくってくれた『国立人』の編集者である加藤優さんとの出会い。“ウクライナ人講師(Alla先生)のヨガ教室”というこれまでにない環境に惹かれて門を叩いたヨガ教室で広がった、新しい世界と友達の輪。『国立本店』第9期の活動で出会った、さまざまな経歴のメンバー。再就職活動に苦戦した辛い日々を経て、巡り合った新しい職場。未知の分野の仕事を覚えるのに苦労した半年間。私のような一般人でも、なんだかいろいろありましたが、「それでも、よくがんばったじゃない……」と自分に労いの言葉を掛けたくなる思いです。

約1年を通して、私の『国立暮らし1年目』をご紹介させていただきましたが、今回で最後となりました。このコラムを通じて飾ることのない暮らしぶりをご紹介させていただきましたが、いかがだったでしょうか。読んでくれた友人たちから「小旅行を楽しんでいる気持ちになれた」「コロナが収束したら国立に行ってみたい! ぜひ案内して」と声を掛けてもらえて、とてもうれしかったです。

徒歩や自転車で気軽に散策できる“日本で4番目に小さな市”、国立市。小さな街だからゆえに、人とつながりやすく、誰かが誰かを紹介してくれる、そんなこの街が大好きです。

短い期間ではありますが、ここで新しい暮らしを始めたことで広がった世界は、想像をはるかに超えるものでした。豊かな自然と美しい街並み、そして人とつながることが大好きな人たち。人生にちょっと疲れたら、この街に立ち寄ってみてください。あなたの暮らしにも、きっと新しい風が吹いてくると思います。

(書き手:小倉一恵/国立暮らし1年目)

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「国立暮らし1年目」とは

外から見たときと、内側から見たときのイメージは少し違います。そんな『国立暮らし1年目』だからこそ見えてくるものを綴るコラムです。

小倉 一恵 小倉 一恵

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