国立で暮らしはじめて、最寄りの駅や市の公共施設、市内のお店で過ごしているとき、あるフリーペーパーをよく目にします。
それは国立でしか目にすることができず、春夏秋冬を届ける表紙がいつも新鮮な気持ちを運んできてくれる。長く暮らしている人に聞けば、ほとんどの人がその名前を知っていて「毎号ポストに投函されるのを楽しみにしています!」と話す、地域で愛されているフリーペーパー『国立歩記(くにたちあるき)』。
2008年に創刊されてから年4回ずつ35,000部を発行し続け、今年でなんと10周年を迎えるそう!
メインの編集を担当するのは、国立エリアで暮らし働く女性ふたり。10年もの間街の変遷をすぐそばで感じながら、『国立歩記』を作り続けてきました。
「街は変化していくものです。そこで暮らす人、商いを営む人はゆるやかに変わり、人の顔ぶれも移り変わっていきました。そうやって人が集まってくる街にはドラマが生まれます。なので、10年間ネタは尽きないんです」
そう話すのは、国立エリアの情報紙編集経験15年以上になる田中えり子さん。
「この10年で実感したのは、私のやるべきことは“まちおこし”ではなく“まちのこし”なんだ、ということでした」
アートディレクターとして毎号の表紙も撮影している小林未央さんは、そう話します。
かつて文化人の集う社交場だった喫茶『邪宗門』、富士見通り沿いにずっと当たり前のように存在していた銭湯『松の湯』……どちらもここ数年のうちになくなってしまったけれど、地域の人たちにとっては思い出深い居場所でした。
そして、国立の老舗オーダー帽子店『帽子アトリエ 関民』の関民さん。2010年に亡くなられてしまいましたが、その凛とした佇まいやご活動は記憶のなかだけでなく、記事や写真になって、新しく国立にやってくる人々にも語り継がれています。
「長い年月を積み重ねてきた畑や田んぼのある風景や、長く愛されてきたお店でも、なくなると決まったら一瞬でなくなってしまいます。街は変化していくものだけれど、本当はなくならずに済むはずのものが街から姿を消してしまわないように、私はみんな気が付かないような小さなところにも気が付いて、その魅力を記録に残し、共感してくれる人を増やしていきたい。国立歩記だからこそできる“まちのこし”をしていきたいと思っています」
毎号の『国立歩記』はふたりを中心に、ライター、デザイナーなど、地域で働いている人たちが分担して制作しています。
「スタッフそれぞれが自分のできることと、自分なりの街への愛着を持ち寄って仕上げていく、国立の幕の内弁当のような冊子であれたら嬉しいですね」と、田中さん。
「自分自身のことを知って、街で好きなことをたくさん見つけていけたら、自分が暮らす街をもっと好きになれる。“好きなものを見つけたら、誰かに伝えずにはいられない”そんな共感の連鎖が起こって、この街に巻き込まれていく人が増えていくといいなと思います」と、小林さん。
国立歩記の大きな特徴は、一見すると広告ページがないこと。実は毎号、季節のおすすめのお酒を紹介するページがあるのは、地元で100年以上続く老舗酒屋『株式会社せきや』スポンサーによる冊子だからです。せきや監修のもと「いいものを作り続ける」指針を大切にしながら、地域のクリエイターの手によって作り続けられてきました。
一橋大学を中心に、個性的な商店と昔ながらの農地や里山が共存する国立は、コンパクトでありながら魅力がぎゅっと詰まったまち。けれども、いま国立で起きていることは、他のまちでも同様に起きていることかもしれません。
「街の魅力を自分なりに深掘りして、大切に発信することで、その土地にしかない魅力が磨かれていくはず」
国立歩記の制作スタッフはそう考えています。自分の「好き」を見つけることは自分を知ることにつながり、自分の住む街を応援することは、将来の自分の暮らしにも返ってくるのですね。
次の週末は、幕の内弁当のような『国立歩記』をかばんに入れて、国立の街を歩いてみませんか?
(書き手:加藤優/国立暮らし1年目)
sponsored by せきや
外から見たときと、内側から見たときのイメージは少し違います。そんな『国立暮らし1年目』だからこそ見えてくるものを綴るコラムです。