毎年約30万人が訪れる、国立最大のお祭り『天下市』。
11月3日の「文化の日」前後の3日間、国立のメインストリート・大学通りが出店で賑わいます。出店者は国立市内の会社・お店。魅力的な品物が「天下市価格」で並ぶほか、天下市限定の品物もあり、毎年楽しみに訪れる人も多いのです。
国立の風物詩とも言えるこのお祭り、一体どんな人たちが支えているのでしょうか。そのうらがわを覗いてみました。
JR国立駅南口を出て、大学通り沿いを100メートルほど歩いて行ったところから『天下市』はスタートします。
天下市の面白いところは、雑貨やフードだけでなく住宅設備のサービスなど、人々の暮らしに寄り添う幅広い出店のラインナップが揃っていること。毎年この日にやってくるお客さんのために、地元の会社・お店は総力を上げて準備しています。
最終日は『市民まつり』との合同開催で、大学通りの約800mが歩行者天国に!
これほどの盛り上がりを見せる『天下市』は、いつから始まったのでしょう。
それは1965(昭和40)年1月1日、当時から現在まで天下市を主催している『国立市商工会青年部』の発足に端を発します。
まず「商工会」とは何かというと、中小企業の振興をはかるための任意組織として、全国の市区町村に存在していた組織を、1960年に制定された「商工会法」によって認めたものです。国立市の商工会は1968年に設立されました。
現在、国立市商工会青年部には、45歳まで(発足当時は40歳まで)の市内在住・在勤の希望者が、会員として所属しています。
「天下に恥じない商人道を歩んでいこう」というスローガンのもと発足した天下市。その第1回目は、青年部発足と同年の1965年11月に開催されました。発起人は、初代青年部部長の山本昇さん。
その火種は消えることなく、むしろ熱気を増して、天下市は少しずつ規模を大きくしていきました。第5回目からは一橋大学の学祭『一橋祭』と『市民まつり』が日程を合わせて開催され(現在は市民まつりのみ同時開催)、天下市は国立最大のイベントへと育っていきました。
国立の会社・お店が一丸となって作り上げている天下市は、今では国立の文化として多くの人々に愛されています。そこには、不況の時代もコロナ・ショックも乗り越えて、「天下市を続けていきたい」と奔走する『国立市商工会青年部』の姿がありました。
天下市初日の一週間前、会議室からはワイワイ賑やかな声が。
青年部に所属するのは約50名。この日は日程の合う人たちで集まって、子どもたちのためのクジや備品を作っています。
和気あいあいとした雰囲気は、部活動かサークルのよう。ですが、故障した機器を手持ちの道具でサッと直したり、効率のいい手順を考えて協力し合う様子に、それぞれが技術と本業を持つ事業者なのだと実感します。
青年部は、若く多彩なアイデアを持つ経営者の集まりなのです。第56回の実行委員長、キタジマ商事株式会社代表の北島克彦(きたじま・かつひこ)さんに話を聞いてみました。
「天下市のように大きな産業祭を、外部委託せずに自分たちで続けているのは全国的にも珍しいんです。商工会は全国にありますが、国立市は活気があると思いますよ。個人店や小規模な事業者が多いためか、“自分のまちは自分たちで盛り上げたい”という熱意があります」
天下市の準備は、毎年7月からスタートします。出店者やチラシの広告主の募集、市の担当者や警察や保健所とのやりとり、企画や会計まで、全て青年部が手がけています。
「自分が生まれる前から開催されていた天下市を、自分の子どもの世代まで残していきたい。その想いがモチベーションになっています」
第57回の天下市実行委員長であり、商工会青年部部長の河合敬則(かわい・たかのり)さんはそう話します。国立で暮らし始めた約10年前、天下市をきっかけに青年部を知り、「ここで仲間が増えるかもしれない」と入会を決めました。
「もちろん大変なこともあるけど、楽しい。準備に来れば楽しいし、飲み会も楽しい。毎年、『無事に事故なく終わって、みんな喜んでくれた!』という達成感があります」
青年部会員に共通するのは「天下市を続けたい」という想い。続ける理由は「楽しいから」と、とてもシンプルです。
「半世紀以上続く天下市は、国立の一つの文化になっています。そんな文化を継承している国立市商工会青年部は、まちの人からも『天下市を運営している青年部』として、オーソリティのある存在として認識してもらっています」
システム会社代表の中村仁(なかむら・じん)さんは、子育てのために国立暮らしをスタート。青年部を知ったのは、やはり天下市でした。
「歴史のある団体でよくあるのが、やらされ仕事が多くなること。でも国立市商工会青年部のいいところは、面倒なこともなんだかんだ楽しくやっていること。そんな雰囲気が好きだし、楽しいですね。仲間と一緒に大きなプロジェクトに取り組む体験もできますし、大人の部活動のようでもあります」
歴史を築いてくれた先人たちへの敬意を忘れずに、新しい会員の意見も積極的に取り入れて、その年にしかない天下市を築き上げていく青年部メンバーたち。
未来の天下市の火を灯すのは、あなたかもしれません。
東京都国立市富士見台3-16-4