やぼな夜 第2話 ー忠兵衛の熊手編ー

やぼな夜 第2話 ー忠兵衛の熊手編ー

国立の南側にひろがる地域は、古くから谷保(やぼ)と呼ばれています。地元の人々に愛される飲み屋やスナックでは誰が集まり、何を語らい、どんな出会いが繰り広げられているのでしょう。その様子を探るべく、国立人編集部は夜へ繰り出します。やぼって、どんな場所?

もつ七輪焼き 忠兵衛

やぼな夜2夜目は、谷保駅北口から徒歩3分くらいのところにある『もつ七輪焼き 忠兵衛』さんへ。最近ダンスの大きな発表会を終えたばかりで「肉が食べたい!」と思っていた私は、「ホルモン」と書かれた雰囲気のあるのれんに入店前から心踊りました。

中に入ると、7〜8人がけのカウンターと4人がけのテーブル席3つ、奥には座敷があり、女将さんらしき女性がひとりで切り盛りされている様子。私たちと同じタイミングで若い女性と小学生のお子さんが入店されたのですが、まるで自宅へ帰ってきたかのような雰囲気だったので「女将さんのご家族かな」と思いました。注文を取りに来てくれたのは、その若い女性でした。

私たちは豚ホルモン、カルビ、蟹味噌甲羅焼き、瓶ビールを注文。ホルモンはつやつやぷりぷり。口にいれると新鮮な弾力で非常においしく、カルビも味が濃くて、ビールとの相性は抜群です。

カウンター席ではお子さんがまかない晩ごはん中で、「アットホームでいい雰囲気だな……」と思っているうちに、蟹味噌がいい感じに焼けました。これには絶対日本酒! ということで次のオーダーへ。

家族みたいなものです

次のオーダーは日本酒をはじめ、コブクロ、ハラミ、エリンギ、チャンジャ。この頃には私の中で、「オーダーを取ってくれる若い女性とお子さん、お店を切り盛りしている女将さんは、本当に家族なのか否か」問題がかなり気になりはじめていたので、思い切って聞いてみることに。すると……

「もう家族みたいなものです〜」

との答えが返ってきました。でも家族ではないとのこと。詳しく聞くと、『忠兵衛』の女将さんは同じく谷保で営業しているお店『大鷹』のご主人の奥様で、オーダーを取ってくれる若い女性は『大鷹』の元アルバイト。そしてお子さんが生まれてからは、お子さんと一緒に通える『忠兵衛』に移ったのだとか。

なんて素敵な働き方。

「家族みたいなものです」という答えにも改めて納得しました。この時にはカウンター席にもう一組のお母さんと小さなお子さんが座っていて、こちらのお母さんも『大鷹』から『忠兵衛』へ移られたスタッフの一人だそう。女性にとって出産や子育ては、身体的にも状況的にも大きな変化だと思うのですが、そんな中で働くことができる場所、寄れる場所があるのは重要なことですよね。

家族の団らんに混ぜてもらったようなあたたかい気持ちで、美味しいお肉、お酒、おつまみを味わいました。

谷保ってどんなところですか?

オーダーを取りに来てくれた時にそう尋ねたところ、「村!」と即答。みんなが知り合い、みんなが顔見知りで、ちょっとした近況がすぐ伝わる良さと、時には大変さもあるとのこと。それでもここが好きで、居心地が良くて、ふるさとのように思っているそう。

私自身、ダンスの仕事で移動が多い暮らしをしてきた中で、そこにあるお店の存在や、そこで言葉を交わした店主、働く人や常連さんに救われることがたくさんありました。

救われる、と言うと大袈裟に聞こえてしまうかもしれません。でも、「その場に身を寄せてもいい感覚」というのは、尋ね人な自分にとっては本当に嬉しいことで、美味しい食べ物や飲み物で体が満たされるだけではない、心からの満足感があります。

毎日お店を開けて、誰かを迎え入れ続ける。それってものすごく大変なことだと思うのですが、そこで働く人やお客さん、その土地にとっても、『忠兵衛』というお店は大きな存在なんだろうな。そう、お店の一角に飾られていた熊手を見ながら思ったのでした。『忠兵衛』の熊手には1000円札がいっぱいくっついていて、もはや本来の飾りが見えないほど。新しい熊手を飾るたびに、お客さんがお金をくっつけていくのだとか。めでたい!

「私も熊手欲しいんですよね」と店内でつぶやいていたのですが、実はお店を出てすぐ目の前の道が谷保天満宮へと続いており、なんとその日は熊手が買える『大鷲祭(おとりさま)一の酉』の日だったのです!

というわけで、導かれるようにたどりついた谷保天満宮では、以前ダンスでお世話になった『古式獅子舞保存会』の方や宮司さんにもお会いでき、嬉しい再会とともに、人生初の熊手をゲットしました。

やぼな夜1夜目では、『旅路』の愛子ママにクチナシの花をいただきました(今も我が家で元気に生きています)。2夜目は熊手。さて、3夜目は一体何を受け取るのでしょうか?

(取材 木村玲奈 / 編集 国立人編集部)

続けて読む

「やぼな夜」とは

「やぼってどんな場所?」を探るべく、谷保の夜へ繰り出します。

木村 玲奈 木村 玲奈

この記事をシェアする